59: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:26:09.52 ID:X17K8DuQ0
ちょうど電車が入ってくるのが遠くに霞んで見える。
もう時間がない。間に合わなかったときのことなんて考えたくない。
最後の力を振り絞って、駅の改札口に滑り込んで。
駅員さんに500円玉を叩きつけた勢いのまま、ホームへと走り出した。
追いついた!
すぐに来る電車を待っている忍は、物音に振り返って、苦笑いをした。
それでも、視線を交わすと、じわじわと忍の目から雫が溢れそうになっていく。
忍は、慌てて帽子を目深に被り直して、絞り出すように声をかけてきた。
「い、勢いで、突っ走りすぎなんじゃない?」
「はぁっ……お、お互い様だろ……っ」
絶え絶えの息の中で、僕は一瞬だけ映った忍の表情を反芻する。
それは走りながら迷ってきた自分のやるべきことを教えてくれた。
不安じゃないわけないんだよな。
親にも友達にも反対されて、それでも夢の煌めきと自分の努力だけを頼りにして。
たった今、誰も知らない街に往こうとしてる女の子。
ここで応援できたらどんなに素晴らしかっただろう。
ここで背中を押せたらどんなに格好良かっただろう。
僕はぐっと堪えて、握りしめてきた手のひらを差し出す。
「これっ」
「あ、うん。あ、ありがと」
忍は目を丸くして、それから赤くなった手のひらで僕の手ごと宝物のように包み込んだ。
なにこれ。そんな簡単なことすら、忍には何も聞かれない。
近づいてくる電車の音が響いても、ふたりの世界は止まったままだった。
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