32: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 11:56:09.22 ID:X17K8DuQ0
「東京に行ったら、おまけもいっぱいあるのかなぁ」
小さく細い呟きは、雪の静けさのせいではっきりと聞こえた。
東京。テレビでしか見ることのない煌めく都会。
忍は、その言葉を今日だけで何度も口にした。
忍が隠している秘密に近いところだという感触もあったけれど。
疑問はついこぼれ落ちてしまった。
「忍は……東京、行く気あるの?」
「んーっと。ほ、ほら、キラキラしてて憧れの街じゃない?」
この街が嫌いだってわけじゃないんだけどね、と慌てて付け足す。
いつもよりは落ち着いているけれど、それでも忍は何かに急かされるように答えを続けた。
「テレビの中の世界が全てだとさ、いろいろ気になっちゃって」
ファッションとかそういう話だろうか。
やっぱりどうしても田舎は遅れているし、できることが圧倒的に少ない。
そういった意識の塊が、きっと憧れという名のコンプレックスになるんだろうと考えていた。
「大学生とかになったら行けるかもな」
「それは……そうかも。勉強、頑張らなきゃだね」
遠くを見やる忍の瞳に、気にかかるところはあったけれど。
つい考えてしまう。ふいに広がった空想を止められない。
大学生になって、都会の大学で、忍と一緒に歌って、演奏して……そんな淡い妄想。
君はそれまで一緒にいてくれるだろうか。この関係はいつまでも続くのだろうか。
ふわふわとした気持ちを上手くまとめられなくて、返事はありきたりなものになった。
「ここを出ていきたいって気持ちは……分かるよ」
「でしょ! だってさ……」
急に調子を取り戻した忍と目が合う。
その瞳の奥を見て、次の一言はきっと軽くないとそんな予感がした。
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