17: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 11:44:36.85 ID:X17K8DuQ0
ちょっと休憩しようと僕の声が喉から出る前に、忍の足が引っかかって姿勢を崩す。
忍がどさっと尻もちをついても、アイドルソングは無情に流れ続けた。
「っ……できない」
「あーっ、もうっ!」
忍は苛立つように天井を見上げて、声をあげた。
どうしてできないんだろう。こんなにも努力しているのに。
そんな心が握った拳を床に叩きつけそうになって、すんでのところでやめる。
「……やっぱり、努力しても、才能には勝てないのかな」
弱気な言葉がぽろぽろと涙の代わりにこぼれ落ちた。
その囁きは、才能の前に夢を諦めた僕の心にも突き刺さって、咄嗟に反応してしまう。
「そんなことないだろ」
「だって!! あんなに簡単そうに踊ってみせるのにっ!」
今の忍は、きっと昔の自分と同じなんだ。
誰だって努力して、誰だってどこかでそれを信じられなくなる。
どこかで折り合いをつけて、才能の前に諦めてしまう瞬間がある。
努力が実を結ぶとは限らないことに気付いてしまう。
でも、忍にそれはまだ早いような気がした。
今もまだその場所に留まる自分を慰めるように、なんとなしの言葉を送る。
それは勇気づけられるものではなくて、ただ自分の心が傷つかないためだけのお守りだった。
「努力できることも立派な才能だよ」
そう言い聞かせて、僕はずっと音楽をやってきた。
「え、う、うん」
「そっか……そうだよね……」
驚いたように目を見開いて、忍がその言葉を反芻する。
繰り返す度に、忍の強く握られた掌は緩んで、身体の方に力が戻っていく。
思っていたのとは違う受け取られ方に、僕の方も少し戸惑う。
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