唯「四月は君の華」
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5:1[saga]
2018/03/20(火) 21:08:08.82 ID:NiGcwUvh0
3.

「何をやってたんですか?」

私は少女が階段から降りてくるのを待って、そう切り出した。私たちは帰るために生徒玄関へ向かう。

「別に、何もしてないよ。いつもああやって、音楽室にこもってるの」

私より一つ上の、つまり2年生の証である赤色のうち履き。私より古くなった学生鞄。

周りの子たちとは、どうしても相容れない特別さがあった。

「平沢、唯さん」

少女はちょっと驚いたように私を見る。どこか無気力に、でも確かに私を見てくれた。

「なんで私の名前、知ってるの?」

知っている。何年前だったかな。多分5年くらい前から。

でも私は何も知らない。この少女がこの学校の生徒だったことも、少女の涙の理由も。

「私、ギタリストなんです」

私は少女に振り返る。

平沢唯は天才ピアニスト。
ピアノ業界を揺るがせた『2代目』。

「ずっと前から好きでした」

少女はころっとした目で私を見る。

これは春の物語。
私の春は、はじまり始める。

「……あなたのピアノが」

5年振りに、私は笑った。



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