8:1[saga]
2018/03/17(土) 23:51:54.58 ID:Kkr9l5xs0
5. past 律side 1年生4月
「入部希望者を待つ!!」
「……待つの?」
「待ぁつ!」
澪はいつもみたいに困ったように笑っている。強引に連れて来たのは普通ならまずいのかもしれないけど、私は今までこうやって澪と過ごしてきたんだ。澪もなんだかんだはっきりしてるところもあるから、本当に嫌なら自分から出て行くだろう。
それから間も無く、
「あの〜見学したいんですけど……」
「…!! 軽音部のっ?!」
「い、いえ。ジャズ研の……」
「軽音部に入りませんか?! 今人数が足りなくて!」
「え、あの……」
「後悔は……させません!!」
「おい律! そんな誘い方したら迷惑だろ?」
澪が割って入る。私がブーブー言って、澪が鞄を担ぎながら何か言おうとしたその時、
「あ、あの!」
人付き合いの苦手そうな、このきれいな黒髪のツインテールの子は意を決したように私に詰め寄った。
「一年生、ですよね? 私と同じで。他に部員いないんですか?」
「そう、後2人集めないと廃部になっちまうんだよ」
じゃあ、と彼女は視線を泳がせて、多分澪のことを見て、しばらく考えたあと、
「……練習」
「ん?」
「練習、真面目にやっていきますか? 私、もっともっと上手くなって、大勢の人の前ですごい演奏をしてみたいんです!」
勢いに気圧された。澪もびっくりしているようだった。
「ももももちろん! がっつり練習していくぞ!」
彼女は澪を見た。期待と不安がごちゃごちゃになった目だ。
「ほんとう……ですか?」
「まあ私はまだ軽音部に入るなんて言ってなゴフゥ」
鳩尾に腹パンした。
「ま、まあやるからには本気だよな。少なくとも私は。律の方は不真面目だけど、ドラムに関しては毎日楽しそうにやってるから平気だと思うよ」
彼女の表情が少し明るくなった。また少し考えた後、
「分かりました。私も仲間に、えっと……仲間に、いれてください!!」
やった! そう私は彼女の手を取って笑いかけた。
「私はドラムの田井中律! でこっちがベースの秋山澪」
「私は中野梓です。担当はギターを少々……」
よろしく、と澪とも握手した。澪も軽音部参加を決めてくれたようだ。
「後は……」
私は未来の入部希望者を想像して、
「キーボード、だな!」
走り出した。梓と澪の手を引っ張って。まずはファーストフード店にでも行って梓と話をしよう。それから後1人について考える。
「お、おい引っ張るなって!」
軽音部は動き出す。私たちは廊下を駆け抜けた。
……曲がり角で同じクラスの人とすれ違った。その人は金髪のきれいな、お嬢様みたいな少女だった。
69Res/77.38 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20