10:1[saga]
2018/03/17(土) 23:54:20.08 ID:Kkr9l5xs0
7.放課後 Butterfly Effect
「どうなの、かな」
「ん、なにが?」
今日の軽音部の活動も終わって先ほどりっちゃんや澪ちゃんと別れ、またあずにゃんと二人きりになった。太陽はほとんど沈んでしまって、暗いオレンジが西側の空を包み込む。
「ほら、昼休みの……きゅうべえの」
「あーあれのことね」
私の中で答えは出ている。だからこそ議論は不要だ。
ーー魔法少女になってくれたら、なんでも一つだけ願いを叶えてあげる。
ーー魔法少女になったら、魔女と戦う使命を背負うことになる。
これだけで根拠は充分。こんな夢みたいな話は滅多にない。他にはない。きっとこれを逃したら、一生こんなチャンスは来ないだろう。だから、
「私は絶対に魔法少女になんかならないよ」
あずにゃんがびっくりしてポカーンとしている。そんなに変なこと言ったのかな。
「え、だって唯は面白そうって言ってたよね。だから私は、唯がなるなら一緒にならなきゃって思ってたんだけど」
あずにゃんはどこか安心したような顔で私の方を見ていた。私も彼女の方に向くと、
「だってね、私はこの日常が願いなんだもん。あずにゃんとこうやってお喋りしたり、りっちゃんや澪ちゃんと練習したりするの、すっごく楽しいもん」
中学の頃を思い出す。クラスみんなと仲良くなって、みんなによくしてもらいながら、でも本当の友達は和ちゃんしかいない。遊びに行ったりしたのは、ほどんどが和ちゃんだけだった。
軽音部を始めてから、私は変わった。和ちゃんはそんなに変わってないと言ってたけど、正確には変わったのは私ではなく周りだって、つまり環境が変わったんだって言ってたけれど、私の願いはこの環境がずっと続いてくれることだったと思う。
「だからあずにゃんにもお願い。絶対に魔法少女にはならないでね。私の一生のお願いだから」
彼女のぬくもりはいつも私を安心させてくれた。りっちゃんと澪ちゃんは仲がいいので、自然と私はあずにゃんと二人きりになることが多くなる。和ちゃん以来初めての二人きりの友達。和ちゃんもあずにゃんも、ずっと私と遊んでくれるのかな。
「分かったよ。唯がそこまで言うんなら、私もそうする」
信号が赤になった。いつも私たちが別れる交差点だ。二人して信号を待っている。
なんだか手を離したくなくて。反対側の歩行者信号が点滅し始めたのが嫌で、私は強く手を握った。
「じゃあ、また明日」
青になり、あずにゃんは歩き出した。私はそっと手を離す。笑えてたかな、あずにゃんも私に笑いかけてくれた。
その時。
その時、彼女は固まった。
物凄い音が迫っていた。
私は思い切り手を伸ばす。彼女も辛うじて手を伸ばす。
しかしその手は届かなくて。
目の前を、トラックが突き通って行った。
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