19: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/03/01(木) 21:07:10.65 ID:1Dz8wOupo
現に受講済みの海美はれっきとした"医療行為"としてP氏の隣にしゃがんだのだ。
氏が着用しているシャツを講習通りに手早くめくり、露わになった胸に自身の頬を添えたのも
おでことおでこを合わせる要領で体温を測定しようとしたからであり、
決して地肌に伝わる温もりや、耳をうつ鼓動の音にぽぉっと心浮つく為ではない。
……が、海美も実際の救助は素人だ。知識はあっても経験は無い。
日頃から訓練を受けている救命士とは比べるまでもない一般人。
そんな彼女が、である。
予期せぬアクシデントからP氏の気絶したこの状況の中で冷静さを欠いていたとしても一体誰が責められよう!
"たまたま"呼吸していることを見逃して、"偶然"にも二人きりの状態、
"動揺"から最寄りの病院や知人に連絡を取るという選択を頭の中から抹消した彼女が確信を持って選んだのは。
「やっぱり人工呼吸するしかないね……!」
緊張から口に溜まった唾を飲み込む。実に健全。前述したことからも理解できるようにマウス・トゥ・マウスはキスではない。
キスではないから咎められない。いや、そもそもは人命救助を目的とするれっきとした医療行為であるのだから、
実行に移す際に誰かに咎められるというそれ自体が既にどこかおかしい。
つまり実際に不健全なのは実は世の中の方であり、海美がこれから起こそうとしている全ての行動は『人命救助』という大義名分のもとに健全だ。
だから彼女が寝ているP氏の唇を奪う――もとい人工呼吸を試そうとするのはこの場合極めて正しい判断で、
もう僅かに三センチで唇と唇がこっつんこしてしまう直前にP氏が意識を取り戻したのは海美にとって悔しい誤算だった。
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