126:名無しNIPPER[saga]
2018/05/27(日) 23:30:56.29 ID:0DxDewO/0
呆然としていた僕ににっこり笑いかけてから犬井さんはくるりと振り返り,男仁さんに手を振る.
「今時,珍しくウブな子を連れてくるものだ,男仁よ.感謝するぞ」
男仁さんは肩を竦めた.
「百地くんはバイトで入ってくれているんですよ.貴方へのお土産ではありませんから,そのところをご理解願います」
「わかった,わかった.今朝,お前に耳にたこができるほど聞かされた.百地悠真は儂の玩具ではない」
犬井さんはそう頷きながらも,僕の手をしっかりと握ったままである.
彼女の手はマシュマロのように柔らかくて,温かい.それに包まれていると,なんだか幸せな気分になる.いつぶりだろうか,誰かと握手をしたのは.
一方で,犬井さんは顎をもう片方の手で撫でながら,僕の方をまじまじと眺める..
「ここを案内しようにも,その手に持っているブツはいささか邪魔じゃな.それに儂の家にふさわしくもない」
「その通りです.そもそも,ここには仕事で伺ったのですから,お願いいたします.」
男仁さんの口調に疲れがうっすらと現れていた.
犬井さんが,ふっと口端を吊り上げて,自分が出てきた扉の隙間を指さした.ちょうど成人女性一人分の幅しかない.
「中へ入るとよい.ただし我が家に段差はないが,敷居は高いのでな.男仁は頑張るように」
「もっと大きく開けられないのですか」
「この扉を管理している悟の仕業じゃ.文句があるなら,奴に言え」
犬井さんはくっと上を向いた.
数十メートル上空に点のようなものがいつの間にか現れ,ぶぅーんと低く唸りながら,こちらの様子をじっと眺めていた.
「あれはドローンです.こうした大きな工場で異常があればすぐ気づけるように,工場内を飛び回っているのですよ」
男仁さんはドローンへ手を振った.しかしドローンは何も言わずに,去って行ってしまった.
「今日は天中殺でしょう」
男仁さんはときどき僕の知らない単語をぼやく.
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