14: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2018/02/10(土) 20:05:41.79 ID:4m3755de0
だから、そういうところが、駄目だって言ってるんですよ。
もしもちゃんと感情を乗せていられたのなら。
あの言葉に『恋』を乗せていられたのなら。
「私から、本当の答えを聞き出せたかもしれませんよ」
それだけ言って、私は歩き始める。
奈緒さんは今の言葉に何か言いたげな様子だったけれど、何も言わずについてきてくれた。
そう、私たちはこれでいい。私はそう思う。
人々の波を掻い潜って、ようやく外へ出た私たちを迎えたのは橙から紫までわたる広大なグラデーションだった。
どうやら随分と話し込んでしまっていたらしく、浮かぶ鈍色を見送るだけの時間は残されていなかった。
そうして帰路を辿るうちに微かに煌めいていた橙もすっかり消えてしまって、後に残ったのは真っ黒な夜と私たち二人だけ。
そして、いつもの分かれ道へと至る。私は右で、奈緒さんは左だ。
いつも通りに別れの挨拶を済ませて、私はいよいよ一人になる。
少し前までは一人で歩く夜道は心細かったけど、それもいつの間にか慣れてしまった。
慣れたというよりは、慣れさせられたという方が正しい。
それはこうしてよく奈緒さんが一緒に帰ってくれたからだ。
そう、奈緒さんは初めから良くしてくれていた。
そんな奈緒さんの姿が、声が、表情が、私の中にあるから、今となっては夜道なんて心細くも何ともないのだ。
ふと、夜空を見上げる。
ここからじゃ星なんてほとんど見えないけど、でも、たしかにそれはそこに在って。
すっかり自分の中に居座っている迷惑な先輩のことを思い浮かべながら、私は呟いた。
「……これって、恋なのかな」
誰にも聞かれることのないその声は、深い黒へ溶けていく。
……いつか、あの星まで届けばいいな。
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