95:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/04(日) 22:41:13.61 ID:gbrZvsqSo
「着いたよ、蘭子」
ボクは、彼女の部屋の扉を開きながら声をかけた。
何故そうしているのかと問われれば、そうする理由があったから。
今の彼女は顔を赤くし、その瞳からは――彼女の言葉を用いるなら、魔力が感じられない。
まるで、雲がかった夕焼けの様な蘭子の言葉は、
「ありがと〜ぅ」
いつもの彼女のものではなく、別人にすり替わったように甘い。
その甘い果実が手の届く所にある事は、役得と言うべきなのかな。
しかし、残念だけどボクも蘭子も女同士。
彼女に好意を持ってはいるけれど、それは友として。
「ん〜っ!」
蘭子が、甘えたようにボクの腕にしがみついてくる。
このまま部屋に入り、自分をその寝所へ導いてくれ、という事なのだろう。
言葉ではなく、彼女の行動によって、その心の内までも理解る。
それが悪い気もしないのもまた事実ではあるし、甘えられるというのも存外嬉しいものだ。
「ほら、もうすぐベッドだよ」
蘭子も、このような姿を見られ続けるのは本望ではないだろう。
自分が望まざる姿を見られ続けるというのは、拷問に等しいとボクは思う。
自分が自分らしくいられないというのは、セカイに自分が存在しないのと同義。
そんな、存在しない姿を見続けるのは、その、友達として気が引ける。
「……しかし、試作のウィスキーボンボンで、こうなるとはね」
バレンタインデーまではまだあると思うのだが、
蘭子も含め、女子寮の乙女達はそうは思わないらしい。
まだ、ではなく、もう。
同じ時間軸を過ごしているというのに、捉え方はまるで違う。
ボクと彼女――蘭子は違う。
違うからこそ……理解り合える事が出来るのだ。
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