奈緒「志保、コタツはいつでも出せるんやで」
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30:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:28:39.64 ID:3iKMEwHU0
「例えば学校での青春やったり、恋人との甘い一時やったり、気のあう仲間との時間やったり。ぬくぬくーっとしたあれ、コタツみたいやんか」

 思い返す。なるほど、奈緒さんの言い方はおもしろい。
 あの日々はコタツのようだった。一理ある。

「……酔っぱらいの割りには、うまいこといいますね」
「もっと褒めて」

 ピースサインをして、奈緒さんは残りのお酒をあおった。ごくごくと飲んだ。

「放っておいても、いつか時間という名のおかんが片付けるねんで。
 それを人に言われもせんと、志保は片付けてしまった。
 ……それは理屈では正しいのかもしらん。
 自分の道を進んでいくうえでは必要なことやったんやろう。でもなぁ」

 ざーっと天板の上を滑るものがあった。
 コタツ布団へ、お腹の上へ、ぽとりと落ちる。

「7年経ったんやで。もう、コタツはいつでも出せるんと違うか」

 手を離したのは間違いじゃなかった。
 それは多分、確かなことだと思う。あの時に離れなければ、この7年間はなかったはずだ。

 じゃあ、今は?
 7年が経って、お酒も飲むようになって、昔のことを笑いながら振り返れるようになった私は、またこうして選択の岐路に立っている。

 奈緒さん風に言わせるなら、コタツを出すのか、しまうのか。

「……迷惑じゃ、ないんですかね」
「私を楽しそうに酔いつぶしてたのに、何を言うてるんや。
 ……もっとも、志保にコタツの出し入れを手伝ってくれる人徳があるかはしらんけど。それは自分で確かめてくれや」

 天板を滑ってきたもの――奈緒さんの携帯電話を手に取る。
 新規メールの作成画面が開いていた。宛先は、765プロのみんなだ。

 テレビに明かりが点く。奈緒さんがリモコンで再生を押したようだ。
 ライブの続き。エミリーが舞台からはけていく。
 やがて音楽が鳴った。観客席に灯るサイリウムの色が切り替わる。赤と白が煌めいた。

 あぁ、この頃はまだ揃ってなかったなぁと思い出す。
 私は別にどっちでもよかったんだけどな。赤も白も好きだし。
 この歌は、たぶん、どちらも受け入れられるはずだった。


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