31: ◆5AkoLefT7E[saga]
2018/01/12(金) 23:59:27.74 ID:rvz5aNSu0
「失敗?」
「そうだよ、失敗。どう見てもそうでしょ?」
「……なるほど」
少しだけ、視線を宙に漂わせた後、プロデューサーさんは私の目を見て、ゆっくりと、話を始めた。
「裕美はさ、野球って見るか?」
「え……?」
「野球。あ、知らない? ピッチャーが投げたボールを、バッターがバットを振り回して遠くまで」
「それは知ってる」
また少し、語気が強くなってしまった。バカにされているような気がして。
「俺さ、昔から野球が好きだったんだ。中学までやっててね。……ま、今じゃスイングしただけで体が悲鳴を上げるんだけどさ」
「……」
別に返事をする気にもならなかった。どうして急にそんな話をするんだろう。
「中学校の時だったかな。ある試合でさ、俺の友達が三振しちゃったんだ。確か、逆転のチャンスに。尻もちつくくらいのフルスイングだった。そしたら、トボトボとベンチに戻ってきたそいつに、監督がこんなことを言ってきた」
『振らなければフォアボールだったのに。勿体無い』
「って」
「……」
「酷い話じゃないか? そりゃ見逃せば確かにボール球だったかもしれない。でもさ、そいつのバットがもし、当たってさえいれば、ヒットとか、ツーベースとか、もしかしたらホームランになる可能性だってあったんだ。そうだろ?」
「……そう……かもね」
「そいつはさ、三振が多くって、足だって遅くって、守備も上手いわけじゃなかった。でも、すげえパワーがあったんだ。そいつが打席に立つたびに、みんなでワクワクしたのを覚えてるよ」
思い出を語るプロデューサーさんは、とっても楽しそうだ。その目はまるで少年のようにキラキラ輝いている。もしかしたら、本当に、少年時代に戻っているのかもしれないって、錯覚するくらいに。
だけど、次の言葉を絞り出すまでの、ほんの一瞬で、その目はちょっと曇って。
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