【モバマス?】一ノ瀬志希?「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」
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◆Z5wk4/jklI
[saga]
2018/01/08(月) 21:25:06.06 ID:MruIbyxGO
<7>
「ああ、なかなか良いじゃないですか」
志希さんの影武者として、メイクと衣装を整えた私の姿を見て、プロデューサーさんは満足そうにうんうんと頷いた。
美城プロダクション――私や、世の中のたくさんの人が憧れていたプロダクションの中にある部屋のひとつに、私は呼ばれていた。
「もう少し寄せていく必要はありますが……それはおいおい。並行して『レッスン』をしていきましょう。トレーナーの指示に従ってください」
「……はい、あ、あの……」私はおそるおそる尋ねた。「やっぱり、私がそんな、影武者なんて出来るんでしょうか……」
「ち、ち、ち」プロデューサーさんは人差し指を立てて私の目のまえで振る。「いけませんよ。一ノ瀬志希は自分のことを『あたし』と言います。矯正にはきっと時間がかかります。意識的に直してください」
「は、はい。あと、わた……あたし、化学の知識なんてないし、志希さんみたいに大学に行けるような頭もないですし……」
「大丈夫です」プロデューサーさんはきっぱりと言う。「一ノ瀬志希のことは、知っていただけていますか?」
「はい」
ファンだから、という言葉は、心のなかにしまったままだ。
「一ノ瀬志希が中退したという大学がどこにあるなんという大学だか、ご存知ですか?」
「……それは」
明らかにされていない。志希さんは、化学の天才的才能で飛び級して、アメリカの大学に行き、そしてつまらないからという理由で中退した。
「ですので、大丈夫です。お仕事で志希が化学についてどうこうするような場面もほとんどありません。ま、台本のように単語を覚えてもらうことはあるかもしれませんけど」
「……はぁ」
演出できるということだろうか、と私は思う。
「あと、匂いにも自信はなくて……」
「んん、そっちのほうは全然心配ありませんよ。アガったな、と思うようなときに、いい匂いだと言うようにしてもらえれば」
「そんなので、大丈夫なんですか?」
「大丈夫です!」
自信満々に、プロデューサーさんは言った。
「それこそ、嗅覚は主観的な感覚ですから。志希が『いい匂いがする』と言えば、そこに匂いが感じられなくても、人々は志希にはわかるんだなと思い込みますし、人によってはいい匂いを錯覚するかもしれないですね」
「そんな……そんな騙すようなこと、私」
「ち、ち、ち」プロデューサーさんは人差し指を立てる。「『あたし』です」
私――いや、あたしは、頭がくらくらした。
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