19: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 22:56:04.06 ID:6rZ5mY140
その後展開はあらず再度無言になった俺たちは、二人で空を見上げ綺麗だね……と言葉を失った後、ふと腹に激痛が走る。胃の中に硬い縄で限界まで引き締められる痛む俺の腹は食物を欲していたのだ。ようやく出番だな。俺はバッグから弁当箱を持ち出した。
勇太「そろそろお昼にしないか」
六花「なにそれなにそれー!」
今日のこの日のために昨日時間を合間縫って作った最高級愛情弁当だ。樟葉の料理の終わりを見かねてキッチンに入り愛と蒸気で汗を流しつつ早急に仕上げたご飯おかずの二段重ねの特製品。なんとタコさんウインナー付きなのだ!金色を反射し持つと震えるいかにも柔らかそうな卵焼きに六花は驚いたようだ。早速六花は俺が弁当を置く前に箸を持つ。
六花と俺の膝の隙に弁当を置くと二人で青い箸とピンクの箸の二種類で持って弁当を食べる。と言いたいところだが俺が肉団子を頬張り感触を味わうと、なんだか六花はそうじゃないようで。地面を見つめ眉を垂らし先ほど弁当を見せた際の腕の高ぶりも静かに落ちていた。なんとか繋ぎ止めたいと六花の横顔を明るく見つめている。
勇太「なんだよ。どうしたんだよ」
六花「んーん。なんでもない」
六花は俯いている。楽しくなさそうに。じっと動かず俺の気遣いの終わるのを待っているように感じる。元気?って聞いたけどうんって、その顔で言われても嬉しくないよ。急に楽しさをなくすなんてよっぽどのことだ。お前本当にどうしたんだ。なにかあったか。俺の発言で傷ついた痕跡として考慮するもタイミングが不一致だ。不可解に訪れたこの現象をうまく解読することができない。でも愛らしい顔と気分の消失から見て今失望の最中に落とされた心理状態だと確信を持って言える。だがなぜ六花が生命の希望を捨てているのか、過去の映像を探っても見当もつかない。ずっと付き合って長年理解したつもりだったのに六花の気持ちが分からない。くやしい。なんだよ。なんだかもどかしさを感じる。六花の全てを理解しているつもりだったのに全然理解できていない。でも何か彼女の横顔を見ていると遠くの方から草花ではない生暖かい不思議な風や匂いを感じる。今の彼女はどっかでまるで俺が経験したことがあるような引っ掛かりのある何かに縛られた。なぜだろう?この世界の正体を俺は知っている。確実に覚えている……!なにもない空虚で覆われた真っ暗の雰囲気だったことはわかる。大切なクマさんだとかに家出されたときのあの雰囲気に近い。何かが俺を闇に誘うあの空間が懐かしくてぼやけてしまって、しかも今回は何か違うような感じがしてうまく思い出せない。誰かがいるようで誰かがいない、それも人間じゃない、虚構の空間の正体。真っ黒な優しくて、でも辛い……何かだった。封印?そうだ、封印したはずなのに……?黙示録を解放する妄想をするとなぜか俺の体は、まるで長い間遠距離の知人と再会し高揚する気持ちになったかのように躍起になる。でもそんな人も知る由もないし、封印も禁断も関連と一切ない。じゃあ、なんで。俺の身の世界に何かが起こっている。心臓のベル塔の警鐘におびえる俺がいる。公園の不動の周囲から何か恐ろしい敵意を感じる。誰かに見られている感じがする。誰かが俺たちを誘引している気がする。優しいなら、ただ見守っているだけなら臆病になる必要性もないのに。止めよう。知るだけ邪道だ時間の無駄潰しを今日に限ってしたくない。思わず俺もそれに引きずり込まれそうになるが今日だけは別なんだ。例の告白が待っている。それに丹生谷も陰で応援しているし俺の今の行動に間違いはないと思いたい。もし本当にクマさんみたいに失くしたんなら、それなら失くした分も新しいもので埋め尽しちゃえばいいんじゃないか?気軽にハイテンションで行こうよハイテンションで。
命の沈んだ彼女に、慰めにもならないけど大丈夫かって慰める。うん。と答えた彼女は虚ろげな瞳をゆっくりと俺の目に合わす。見上げた顔に太陽の光が差し、髪が風になびいて奇麗なお凸の形を見せる。そして彼女の眼帯と俺の目がぴったりと一致した。
勇太「瞳と瞳があった。これで契約完了だな」
そういうと六花は少し口を緩めて元気になる。
せっかく俺は恋人になったんだから。その意思が俺の腕を動かして、俺の青い箸を卵焼きに挟み六花の口元に優しく持っていく。
その真剣な俺の姿に驚いたのか六花は急に顔が赤くなって、周りの景色を首で確認したあと少しうずくまり、その麗しく柔らかい、卵焼きにも匹敵する唇へと連れて行く。
普遍で不変の悠長な顔で味わう予定が、口元と目元の上がりで台無しになったようだ。
勇太「おいしいか?」
六花「うん」
六花のちょっぴり薄い笑顔を見て嬉しくなったよかったと安堵する。やっぱり体力の尽きたせいだ気のせいだな。人間空腹だとおかしな未来を考えがちだ。六花もこの宇宙で最強の邪王心眼と称しながら本当は人間だった。弱い人間だった。
顔の紅潮を膨らます六花は今度は卵を持ち上げて俺の口に「あ〜んして」と指示し、俺の口に大胆にも歯の中まで持っていく。やっぱこれ赤ちゃん扱いされているみたいでかっこ悪い。高校生なのにこんな幼稚なことをしてもらってと思うと胸に針が刺ささっているようでムズムズかゆい。その卵からなぜか口につけてない箸から六花の味がして喜びが止まらない。そして六花は俺の口に入れた箸を自分の口に含みペロッとひとなめする。六花の口に俺の温かい唾液が二色混じっているのを想像する。
勇太「恥ずかしいだろやめろよ!!!」
六花「いいじゃん別に」
と、目を反らしイヤミにニヤっとした表情で彼女は答える。なんか夜のことを想像するからやめろ!!!恥ずかしい!!!!!!
俺は六花に食べ物を持っていき、六花は俺に食べ物を持っていき「あ〜ん」と首を伸ばす姿をお互いに愛らしく感じる。トマトを見ると「魔獣の卵みたい」と言われた。お前まだ好き嫌いあるのかよ!と、そう言おうと口を開くとあ〜んされた。ふふんっドヤ顔される。策士め!食べ物をあげていく。その六花に持っていくのがあまりにもかわいくてハムスターが懸命にご飯を食べて少しずつ成長しているみたいに思えて「りっかたんご飯でちゅよ〜」と言うと、ムッとした表情で口を堅くされた。それはいやなんだな。わるいと言い無言でご飯をあげる。
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