北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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8: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 21:47:37.04 ID:vyCd+JK40
「あ、あの、ちょっといいですか?」

 見ると、高校生ぐらいの女の子がいた。かなりボリュームのある長い髪を後ろでまとめていて、まっすぐに切りそろえた前髪の下から意志の強そうな太い眉がのぞいている。あたりに他に人は見当たらない。

「ええと、アタシ?」

「はい! あのっ、ここのアイドルの人ですか?」

「いや、違うけど」

「あれ?」

 女の子はあわてた様子でポケットから名刺を取り出し、建物とそれを交互に見比べた。
 もしかして、アタシと同じようにスカウトされてやってきたのかな?

「ちょっと見せて」

 横から名刺を覗き込む。アタシが受け取ったものと同じデザイン、同じ地図が印刷されていた。女の子が名刺を表側にひっくり返す。社名や住所、代表電話番号なんかは同じ、ただし名前が違った。昨日の、あのプロデューサーとは別の人物から受け取ったものらしい。

「場所は間違ってないよ。その建物がCGプロ」

「そ、そっか、ありがとう!」

 女の子は軽い会釈をして、緊張した足取りで建物に入っていった。なんかほほえましいな、なんて思いながらその背中を見送る。

 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、改めて建物に目を向けた。
 あの子はこの要塞みたいな事務所に向かっていった。アタシは、どうする?
 心は決まっていた。アイドルになると決めたわけじゃない、ひとつ、あのプロデューサーに訊きたいことがあった。アタシにあるって言った、『アイドルの素質』ってなに? 昨日初めて会って、アタシのことなんて、なにも知らないくせに。

 しかし、ここのアイドルじゃないと言っておきながら、中でさっきの子とはち合わせるのも気まずいな、なんて考えて、5分ほど辺りをウロウロと歩き回った。そしてようやく意を決して建物に足を踏み入れた。
 さっきの子のこと、笑えないよ、これじゃ。

 受付らしきカウンターの向こうに、女の人が3人並んでいる。
 なんとなく真ん中の人の前に行って、昨日もらった名刺を見せた。彼女は「そちらにおかけになってお待ちください」と言って、どこかに電話をかけ始めた。
 アタシは革張りの長椅子に腰掛けてエントランスの中を見回した。さっきの子は見当たらない。

 少し経って、昨日の男――プロデューサーがやってきた。



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