北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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50: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 23:20:14.98 ID:vyCd+JK40
 ドアの向こうの足音が遠のいていき、部屋にはアタシとプロデューサーのふたりだけが残された。

「訊きたいことがあったんだ」

 アタシが先に口を開いた。

「なんでアタシに、素質があるなんて思ったの?」

 プロデューサーは、しばしのあいだ考えこみ、

「寂しそうな目をしてたから」と言った。

「……といいますと?」

「人生がうまくいってなさそうだってこと」

「言ってくれるね」

 だけど、それは間違っていない。

「ライブは楽しかった?」

「うん」

「よかった」

 プロデューサーが優しい笑みを浮かべる。アタシは無言で続きをうながした。

「……ひとくちにアイドルといっても、いろんなタイプがいる。中には他の道に進んでも成功しただろうって人もいる」

「うん」

「俺は、そういう人は、必ずしもアイドルを志さなくてもよかったんじゃないかって思ってしまうんだな。決して楽な道じゃないし、他にできることがあるのなら、そっちを選んだほうがいい」

「それが、アタシの人生がうまくいってないってのと、どう関係あるの?」

「つまり、俺の目に加蓮は、周りの人間が楽しいと思うことを楽しめない。なにをやってもうまくいかないし、なぜうまくいかないのかもわからない。なにをしてても生きてるという実感が湧かないような人間に見えた」

 ひっどい言われようだなあ、と思った。

「他になにもできることがなくて、アイドルしか生きる道がないってのは、これ以上ない才能だと思うよ」

 ……そっかそっか、アタシはアイドルしか生きる道がないのか。

 それからプロデューサーはコホンとひとつ咳払いをして、

「それじゃあ改めて。北条加蓮さん、アイドルになりませんか?」

 封筒を一通差し出してきた。中には本契約の契約書が入っているのだろう。
 気のせいでなければ、プロデューサーは少し緊張しているように見えた。なんだか、ラブレターでも渡されているみたいだ。

 アタシはそれを受け取ろうとはせずに、しばらく考えた。



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