北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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4: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 21:33:52.34 ID:vyCd+JK40
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 小さいころから体が弱く、いつも入院ばかりしていた。

 まるでもうひとつの自宅のように、頻繁に病院を出入りする日々を送っていると、お医者さんや看護師さんと顔見知りになってくる。それから、他の入院患者とも。
 入院しているのは当然、重いケガを負った人や、病気を抱えている人たちだ。中には歳の近い子もいて、会えばちょっとしたおしゃべりをするぐらいには仲よくなることもあった。
 お互いの病室を行ったりきたりして、入院生活の退屈さや、病院食のまずさの愚痴を言い合う。「あの先生は針を刺すのがへたくそだ」なんて話もした。
 あとは、テレビ番組の話題が多かったと思う。
 ずっと寝たきりというわけではないにしろ、病院の中で娯楽はそう多くない。だからアタシも含めて、入院患者はたいていテレビをよく観ていた。自販機で専用のカードが売っていて、それの制限時間分だけ観れるというシステムだったけど、家族がお見舞いに来るたびに、なぜか決まってこのカードを買ってくれたので、いつしか消化が追いつかないぐらいの枚数が貯まっていた。だいたいどの家庭でも同じようなことになっていたみたいだった。

「加蓮ちゃんって、**に似てるね」

 たまにそんなふうに言われることがあった。
 それは人気のアイドル歌手の名前で、当時は毎日のようにテレビに出ていた。
 歳はアタシよりかなり上だったけど、そう言ってきたのはひとりやふたりじゃなかったから、たぶん本当に似ていたんだと思う。

「加蓮ちゃんも将来アイドルになるのかな?」

「なれるわけないよ」

「えー、加蓮ちゃんならなれるよ、かわいいもん」

 そんなやりとりを何度も交わした。
 もちろん悪い気はしなかった。幼いながらも、自分の容姿はなかなかいいんじゃないかと自惚れてもいた。だけど、そんな未来は決しておとずれないだろうとも思っていた。
 少し体を冷やしたら熱が出る。風邪の流行るシーズンは誰よりも早く流行に乗る。アタシにとって、たかが風邪は命に関わるものだった。

 もしもこの体がふつうだったら、『外』の人たちのように元気だったら、アタシもあんなふうになれただろうか。
 いつも、そう考えていた。



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