北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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23: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 22:36:40.83 ID:vyCd+JK40
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 体質が奇跡的な改善を見せ、体の調子は格段によくなったけど、それでなにもかもがうまくいったかというと、そうでもない。
 ようやくまともに通えるようになった学校生活は、アタシにとって、決して楽しいものではなかった。

 それまでろくに授業を受けていなかったため、勉強はまったくついていけなかったし、運動に関しては論外といっていいものだった。
 本気でなんとかしようとすれば、できないことはなかったとは思う。授業内容がわからないのなら、今からでも勉強すればいい。体力がないのなら、体を動かしてつければいい。それができる体になったのだから。
 しかし、絶望的な出遅れとは、追い付こうという気力すらも湧いてこないもので、アタシは真面目な学生にはなれなかった。努力してやっと人並みなら、出遅れたままでもいいと思ったからだ。

 人間関係においても、アタシはうまく周りになじめずにいた。
 いじめられていたわけではないし、話しかければ返事ぐらいはした。だけど、友達と呼べるような人はいなかった。
 あまり積極的には関わりたくないと周囲に思わせる、学校でのアタシは、どうやらそのような存在だったらしい。

 そして、アタシは生活指導の常連でもあった。
 最後の長期入院をした、あの一件依頼、ネイルがアタシの趣味となった。それほど長くは伸ばさなかったけど、いつもなにかしらの色は乗せていたし、丁寧にケアもしていた。
 それが教師には気にくわないらしい。だけどアタシは、何度注意されてもそれをやめなかった。自分の爪を磨いたり、マニキュアを塗ることが、いったい誰の迷惑になるというのか、どうしても理解できなかったからだ。

 ある日、『放課後職員室へ行くように』と、もう何回目になるかもわからないお達しを受け、アタシはそこに出向いた。職員室では生活指導担当の教師が待ち構えていた。体育教師でもないのに年中ジャージ姿で、頭部にちょっとした特徴があり、いつも身に着けている被り物の名前が、生徒のあいだでの彼の通称となっていた。
 長々と続くお説教を、頭をからっぽにして聞き流す。なにを言われたって、どうせ爪をむしりとることまではできやしない。台風は黙って通り過ぎるのを待てばいい、それだけだ。

「勉強するのに爪に色を塗る必要があるのか?」

 教師が言う。勉強に必要なことだけで生きている人なんて、この世のどこにいるのだろう、と思った。

「勉強を教えるのにカツラをかぶる必要はあるんですか?」

 と訊き返した。直後、顔にはじけるような衝撃が走った。
 体のバランスを崩し、たたらを踏んだ。左の頬がじんわりと熱くなり、痺れのようなものを感じた。引っ叩かれたのだと気付くのに、少しの時間を要した。
 教師は、呆けたように自分の手のひらを見つめていた。
 アタシは黙って職員室を出ていった。背後から制止するような声がかかったけど無視した。
 昇降口でさっさと靴を履き替え、家に向かって歩き出す。歩調が意図せずして速くなっていき、しまいにはほとんど走るみたいになっていた。
 張られた頬が、じんじんと痛んだ。
 涙がこみ上げてきそうになるのを、下唇を噛み締めてこらえた。
 こんなのどうってことない。ただ痛いだけで、死ぬわけでもなんでもない。アタシはこんなことよりずっと苦しくて怖い思いをしてきたんだもの。たかだかこの程度のことで、絶対に泣かない。



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