445: ◆vVnRDWXUNzh3[saga]
2018/06/04(月) 23:47:41.00 ID:8RT1ILCz0
それでも、光明もある。駆逐艦ながら高い性能を誇る陽炎が貴重な対空火力であるM42も伴っての派遣される点はプラスの意味での計算外だ。逆に主戦力と見込んでいた重巡羽黒はまだ動けないらしいけれど、そもそも彼女がいる若見屋交差点はここから1キロと離れていない。
敵航空隊の排除さえなれば、徒歩でも10分とかからず合流が見込める。苦戦するようなら、先に陽炎たちを若見屋交差点の援護に向かわせて敵航空隊を跳ね返すという手もある。
例え極楽の菩薩が気まぐれで垂らした蜘蛛の糸よりか細いものであったとしても、反撃への道筋が残っている限り私達に“諦める”という選択肢は無しだ。
「一号車より各位、CPは要請を受諾し現在増援戦力を編成中!尚、友軍戦力には西福寺の【陽炎】と若見屋交差点の【羽黒】が健在とのこと!!
踏ん張るわよ、最大火力にて敵艦隊迎撃を継続して!!」
飛ばした激励に対する返答は、殆どない。
通信を境に明らかに勢いを取り戻した火線が、その代わりとなる。
『『オ゛ォ゛ッ!?』』
『『グォオオオオ……!!』』
無論、ヒトマル2両と、他にはせいぜい110mm個人携帯戦車弾───所謂【パンツァーファウスト3】ぐらいしか一撃で相応のダメージを与えられる火力が存在しないという現状は変わらない。それでも、怯ませることができれば後続部隊の到着までこの拠点が持ち堪えるだけの時間は捻出できる………と、信じたいところね。
「しかし、“浸透艦隊の撃滅”とは大きく出たっすね!」
呆れたような、それでいてどこか小気味よさげな声色は足元から。雑談に興じながらも、大隈二曹の狙いは些かも鈍りはしない。
『ギァアアッ!!?』
砲声が鳴り、機銃射撃とは別種の震動に視界が揺れた。新たに上陸してこようとした軽巡ホ級が、首の辺りから間欠泉のように吹き出す青い血を止めようと藻掻きながら仰向けで再度海に転落する。
「CPは二つ返事でOK出しましたけど、勝算はあるんスか一尉!?通信聞く限りだと、上陸した敵戦力規模はもう100隻は確実に越えたッスよ!?」
「100どころか多分200越えてたわね、ひたちなか市の方に向かった奴らも含めるならもっとじゃないかしら」
既に物量の面では、とっくの昔に私たちの対応可能な許容範囲を越えている。しかも大洗鎮守府の動きは封じられており、敵には航空支援と主力艦隊による艦砲射撃の加護つきだ。浸透部隊がほぼ非ヒト型で構成されている点を差し引いたとしても、正面からの激突で私達に勝ち目はないだろう。
ただし、そもそも私達は馬鹿正直に“敵の全戦力を粉砕する”必要自体がない。
「限りなく薄いのは認める、でも0じゃない。悪いけど付き合って貰うわよ、“分の悪い賭け”にね」
「ったく、ハルウララに十万賭けろって言われた方がまだマシな気分ッスよ!」
「ひどい言いぐさ……ねっ!!」
『!!?』
気配を感じて、引き金を押し込み続けながら機関銃の照準を上空に向ける。ちょうど突入してきた【カブトガニ】が、真っ正面から弾丸に貫かれて黒煙と火炎を噴き出した。
『─────………』
『ア゛ア゛ァ゛ッ!!?』
きりもみ状態に陥った敵機はみるみるうちに私達から軌道が逸れていき、空に煤けた弧が一筋描かれる。正面艦隊のまっただ中に墜落したその機体はそのまま隊列の中程にいる軽巡ト級に直撃し、爆散。
『ギギッ…………!』
折しも此方に砲撃を加えるため中央の頭部が大きく口を開けていた矢先の一撃に、ト級が蹈鞴を踏みながら低く呻く。誘爆による一発轟沈……とまではいかなかったが、【カブトガニ】が激突した右側頭部から炎を伴った煙が激しく吹き出している辺りダメージは小さくないらしい。
「パンツァーファウスト!!」
「了解!!」
『ゴガッ……ギィゥ!!?』
即席陣地の一角で、110mm無反動砲数門が一斉に砲弾を放つ。先鋒として殺到したDM32【バンカーファウスト】弾が傷口付近に次々と着弾して装甲を粉砕し、広がった傷口に後続のタンデムHEAT弾が飛び込んだ。
『ガッ……────』
低く大きな音が鳴り響く。港湾部全域がまるで大地震のように鳴動し、一際巨大な火柱が目の前で上がる。今度こそ内蔵弾薬に誘爆したト級が大爆発を起こし、砕け散った奴の残骸がそこら中に飛び散る。
『『『ギァアアアアアアッ!!!?』』』
吹き出した轟炎に巻き込まれ周囲数体の駆逐艦や軽巡が暴れ狂いながら苦悶の声を上げる有様は、さながら絵巻や絵画で描かれた“地獄”をそのまま現実化したかのようだ。おぞましさ、気色悪さも感じるが、それ以上にやはり、胸の内からじわりと滲み出るような恐怖を感じずにいられない。
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