376: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2018/03/25(日) 23:48:00.00 ID:4jDDjcF+0
無理もない。少なくとも威力偵察に参加した艦娘達は、大洗女子学園の甲板上で今現在引き起こされている惨状を実際に目にした。そしてその原因たる深海棲艦は、何をどうやったのか私達の予想を遙かに上回る巨大な戦力の展開を終えている。
しかも、敵が迫っているのはここだけではない。太平洋側のあらゆる方角で、次々と新手の艦隊が現れて日本領海に向かってきている。フィリピンの方から接近する敵艦に至っては、ベルリンを含めて過去に一度も確認されていない“新型”個体だという。
今のところどの戦線も持ち堪えてはいるようだが、いつまで持つかという保証や目処は一切ない。何せ敵の物量は桁外れ、青ヶ島や南鳥島、八丈島の精鋭達でも数的劣勢下での波状攻撃を受け続ければいつかは突破される。喉元にあれほど凶悪な刃が突きつけられている現状では、国内から出せる増援戦力も大幅に制限せざるを得ない。
それに、よしんば日本が何とか全ての攻勢を押し返せたとして………日本“だけ”が耐え抜くのでは意味がない。この世界規模の大攻勢によって制空権・制海権を失陥して海上輸送路が封鎖されれば、兵力に劣る私達は相互の連携も補給も技術提供もままならず各個にすり潰されて終わりだ。
「………」
勝てるのだろうか、私達は。
また負けるのだろうか、私達は。
〈ボカンドノ?〉
「……ええ、大丈夫。少し考え事をしていたの」
視界を同期していた妖精さんが、小さく首を傾げ脳内で問いかけてくる。どうやら、全く指示を出さなくなってしまった私を心配して声をかけたらしい。
(いけないわ。一航戦ともあろうものが、こんな情けない思考をするなんて)
「勝てるのだろうか」ではない。「勝つ」のだから。
「負けるのだろうか」ではない。「負けるわけにはいかない」のだから。
私は、大日本帝国海軍の誇り高き第一航空戦隊、空母加賀だ。
国の名は変われど、住まう人は変われど、ここが私が守るべき祖国。
ならば、今度こそ全てを賭してでも守り抜かなければならない。
「心配をかけてごめんなさい。【あきつしま】の艦載機隊と離れないようにして巡航速度で帰還を────」
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