【ミリマス群像劇】最上静香「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
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◆17z5a1JMEs
[saga]
2017/12/24(日) 03:50:00.02 ID:tCiOWLnR0
20 〜クリスマス当日〜
勤務先にしつこく私を訪ねてくる男がいた。
受付に頼んで門前払いをしてもらっていたが、あまりにしつこく訪ねて来るものだから流石に受付に悪いと思い仕方なく会うこととなった。
その男は私の娘である静香が所属しているアイドル事務所のプロデューサーだった。
何の用かと尋ねると「一緒にライブを見に行きませんか?」と友達のような気さくさで誘ってきた。
静香父「君は初対面の人間をいきなりライブに誘うのか?」
プロデューサー「はい。彼女たちのことを知らない人たちにライブに来ないかと誘うのが私の仕事なんです。これまで一億人以上の人たちに誘いを掛けてきました。」
静香父「なるほど。だが私の答えはノーだ」
私は確かに断った。だがこの男は諦めが悪かった。
プロデューサー「最上さんは、アイドルはお好きですか?」
プロデューサー「これが、弊社のアイドルです。52人もいるんですよ。誰が一番売れていると思いますか?」
プロデューサー「静香さんの歌は本当に素晴らしいんですよ。生で聞いたことはありますか?これ、今度の公演のチケットです。ぜひ来てください」
私が一筋縄ではいかないと知ると。関係のない話で時間稼ぎを始めた。しかも大声で、だ。その狙いは社内にいる人間の視線を私に集めることだ。残業時間に仕事もせずアイドルの話を延々と社内ですることに対する、風当たりは強い。この男は私に対する周りの人間の評価を人質に取ったのだ。そして時間が経つほど不利になるのは私のほうだ。
静香父「君はずるいな」
全く、不愉快な男だ。
プロデューサー「何のことですか?そんなことより、765プロの育成方針についてですが――」
静香父「……いや、もういい。それよりもそのライブとやらはどこでやっている?」
プロデューサー「このビルの近くです。路上ライブですが見る価値はありますよ」
静香父「そうか。ただその価値がないと私が感じたら、帰らせてもらう」
プロデューサー「ええ、結構です」
私達は会社を後にした。
ライブ会場への道のりでこの男は空を見上げて、ふと独り言を呟いた。「ああ、今日も見えるな。シリウスにプロキオン、そしてベテルギウスが」
静香父「ベテルギウス?」
あいにく私は星に興味がなく、有名な星の名前程度しか知らなかったし、名前と実際の星の位置との対応も知ろうとは思わなかった。だが先日静香が言った『私はやっぱりベテルギウスと同じなのかな……』という言葉が、なぜか今頭に浮かんできた。
プロデューサー「ええ、南の空に一番輝くシリウスの近くにある赤く輝く星がベテルギウスです。」
ほら、あれですよ。と男は星を指さす。
プロデューサー「でも赤いということはもう星の寿命が近いことを意味していて、600光年以上離れているベテルギウスはもしかしたら既に消滅していて、明日に消えるかもしれないし、600年後に消えるかもしれない。そんな危うい星なんですよ」
静香父「消滅……」
プロデューサー「はい。ベテルギウスが消えたら、冬の大三角はどうなるんでしょうね?」
この男は寂しそうにつぶやく。
『私はやっぱりベテルギウスと同じなのかな……』
それに呼応するかのように、もう一度頭の中で静香の寂しそうな声がした。
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