89:名無しNIPPER[saga]
2018/01/06(土) 20:32:56.75 ID:eJvlprTto
*夜・自室
千景(表面上は何事もない一日が終わろうとしている。……二日連続で欠席するわけにもいかないと思い勇者部にまで顔を出したのが失敗だったわね。実質一日を無為にしてしまった形となる)
銀「いやー、町内会のおばちゃんたちが作ってくれた夕飯美味しかったですねー」
千景(いつものように三ノ輪さんが私の部屋でゲームのコントローラーを握っている。プレイしているわけでないため、モニターではデモ画面のループが続いていた。三ノ輪さんなりに現状を鑑みてくれているのだろう)
千景「あの年代の女性は何故あそこまでパワフルなのかしら……。自称女子力の塊でさえ断ることが出来ていなかったわよ」
銀「おばちゃんってそういうものッスよ。ボランティアはお礼を求めてするものじゃないのは分かっていますけど、やっぱりたまにはこういう役得があっても良いですよね」
千景「おかげさまで上里家へ行く時間がなくなってしまったのだけれどね」
銀「あー、だから少し機嫌が悪かったんですね?」
千景「東郷美森の性格を考えるのであれば、明日からの祝日を利用しないと言う選択肢は存在しないわ」
銀「……その、本当に東郷さんは、じ、自殺を……何度も試したりするんですか?」
千景「実際にアニメで描写もされていたし、私が接してきた彼女の実像とも合致している行動よ。アレは裏付けをとらなければ気が済まない厄介な性格をしていることはあなたも承知しているでしょう?」
銀「……須美もそうですけど、要するに真面目が過ぎるんですよね……」
千景「真面目という言葉は定義が広いせいで物事を曖昧にするわ。東郷美森の場合、自分の中の価値観に強く束縛されている、つまりは自己ルールを曲げることが出来ない人間であると言うのが適当ね」
銀「自己ルールって、横断歩道の白いところしか渡っちゃいけない的なアレですか?」
千景「ええ、それが常態化したようなものよ。朝は六時に目を覚ます、玄関の施錠後には必ず三度ドアノブを回す、テストを受ける時には一度消しゴムに左手を触れさせてから回答用紙をめくる。究極的には食事前のいただきますのような常識的な事柄さえ一種の自己ルールよ」
銀「なんか分かるようなものと分からないものが半々ですけど……あ、そうか! 自分でルールを決められるから本当に何であっても良いのか!」
千景「そう言うことよ。"勇者が死ねないと言うことを何があっても確かめなければならない"と言う自己ルールを東郷美森は設けた。遵守するためにあらゆる手段を用いるのが彼女の性格なら、自身の中で最も価値の低いであろう自分の命をファーストチョイスにするのは当然の結論ね」
銀「……自分が犠牲になるんだったら許せる。だけど、親しい人が犠牲になるのは絶対に許せない。……そう言うことなんでしょうけど、アタシは東郷さんのその考え方を認めたくないです」
千景「勇者部にも二通りの人間が居るわ。程度の差はあれ東郷さんのように自己犠牲をいとわないタイプと、自分を含めた全てを救おうとするタイプ。そして、後者に当たるのが三ノ輪さんと樹さんの二人だけと私見しているわ。……もっとも東郷さんの価値観から今の話に至るまで全てが私の妄言かもしれないけれどね」
銀「──いえ、多分全部当たっていると思います。だって、小説の中の三ノ輪銀は園子も須美も弟たちも、アタシ自身も救うために戦い抜いたんですから」
千景「……ええ、その点に関してだけは間違いようのない事実でしょうね」
千景(私もその勇士は小説で確認済みだった)
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