【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】
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642:名無しNIPPER[saga]
2018/06/24(日) 10:13:38.17 ID:sW82/1G70

「ど、どうして……?」

 皆井先生は、そんなつまらないことしか言えない自分を全力で呪いたい気分だが、そうとしか言えなかったのだ。

「昨日、浩二先生が、落ち込んでらっしゃるように見えたので……」

「みんなで相談して、会長が色紙に寄せ書きを書こうって提案をしてくださったんです」

「私たち、浩二先生が心配で、だから……」

「私たちにできることはないから、できるだけ良い子でいます。先生の迷惑にならないように、しっかりします」

「その色紙をもらって、先生が嬉しいかも、わかりません、でも……」

 生徒たちは口々に言う。その言葉のひとつひとつだけで、皆井先生は倒れてしまいそうなくらい衝撃を受けていた。

「私たち、浩二先生のために何かをしてあげたかったんです」

 ああ、そうか、と。

 気づけば、両目から、涙がこぼれ落ちていた。その涙が色紙に落ちそうになって、慌ててスーツの袖で拭う。けれど涙は次々あふれてきて、生徒たちの目の前で、皆井先生は床に大粒の涙を床に落としていた。

「浩二先生……」

「……ごめん。みんな、本当に、ごめんなさい」

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「……昨日は、落ち込むような姿を見せてしまって、ごめんなさい……。少し、プライベートで、嫌なことがあって、それで、みんなにも気落ちしている姿を見せてしまいました……。ごめんなさい」

「あ、謝らないでください! わたしたちは、先生に謝ってもらうために寄せ書きをしたわけではありません!」

 リエさんの言葉にハッとする。

「……そう。そうだ。ごめんより、言うことが、あるね」

 皆井先生は、それ以上生徒に情けない姿を見せたくなかった。だから、ポケットからハンカチを取り出し、徹底的に涙を拭うと、目を真っ赤にしたまま、深々と頭を下げた。

「みんな、本当にありがとう」

 すぐ傍のリエさんが笑った。クラス全体が笑顔で包まれた。そして、皆井先生は顔を上げ、寄せ書きに目を落とした。皆、思い思いの言葉で、皆井先生を励ましてくれている。その中で、ひとつ、簡素だが綺麗な字で書かれた一文が目にとまった。



『あんたが元気ないとつまらないから、早く元気になんなさいよ 後藤鈴蘭』



 その名前がそこにあることが信じられなくて、皆井先生は顔を上げ、後方の鈴蘭を見つめた。

「な、何よ……」

「……散々手を焼かせてくれた後藤まで書いてくれるとは……」

「なっ……! そ、そんなことでまた泣き出すんじゃないわよ!」

 鈴蘭の声に、教室中がどっとわいた。皆井先生はひとりひとりの寄せ書きに目を通しながら、もう一度、心の中で、言った。

(……本当にありがとう)

 もう、何に悩んでいたのか思い出せないくらい、心は充足で満たされていた。



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