【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】
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558:名無しNIPPER[saga]
2018/05/13(日) 21:57:39.28 ID:sptbJ6v70

 否、そんな同僚同士の談笑に付き合っている場合ではない。彼は皆井先生のデスクの上に鎮座する愛の王女を見つめる。

 あれをどう手に入れるか。それをただ考える。と、

「あら?」

「どうかされました?」

 皆井先生の箸にも棒にもかからない話をさえぎって、ひなぎくさんが驚いた顔をする。その目線の先にあるのは、彼と同じ、ぬいぐるみと思い込まれている愛の王女ラブリだ。

「ああ、よかった。あのぬいぐるみ、私のなんです。喫茶店の装飾に使おうと思って買ったのですけど、今日、どこかで落としてしまったみたいで」

「そうだったんですね」 皆井先生がさっと愛の王女を手に取ると、恭しくひなぎくさんに差し出す。「どうぞ。うちのクラスの生徒が見つけて取りに来てくれたんです」

「そうですか。それはそれは。今度その子には、昼休みに購買に来るように言ってください。お礼がしたいので」

「わかりました。本人も喜ぶと思います」

 基本的に女性の前だと格好をつけたがる皆井先生の姿に辟易とした様子で、松永先生が言った。

「ほら、いつまでも引き留めてたら迷惑でしょ、皆井先生。それでは、ひなぎくさん、また明日、購買の方をよろしくお願いします」

「はい。では、失礼いたします」

 彼が口を挟む暇もなく、ひなぎくさんは一礼して職員室を後にした。

「ねぇ、松永先生、いまちょっと楽しそうな話をしてたわね」

「げっ。誉田先生、なんで来たんだよ」

「げっ、ってのはいくらなんでもひどいでしょ。まったく。で、今夜飲むんでしょ? 私も行くわ」

「何であんたまでくるんだよ。男だけの飲みなん――」

「――大歓迎ですよ、誉田先生! ぜひ来てください」

「人のこと押しのけてまで会話に入ってくるんじゃないよ。まったく皆井先生は本当に、女性とみたら見境ないんだから……」

「なっ……そ、その言い方は失敬だろう!?」

 と、仲の良い若い同僚たちがそんな会話をしている中、彼はこっそり職員室を出た。幸いにして、目当ての相手はまだ近くにいてくれた。

「ひなぎくさん」

 彼は質素な出で立ちのひなぎくさんの後ろ姿に声をかけた。

「あら、篤志さん。血相を変えてどうかされましたか?」

「……ソレを、どうするおつもりですか?」

「あら」

 ひなぎくさんは楽しそうに笑う。笑いながら、口元に人差し指を当てている。

“ぬいぐるみ” の前で、滅多なことを口にするな、ということだろう。

「私の落とし物ですもの。私が持ち帰るに決まっているでしょう?」

「……わかりました」

 彼は、自分が何のためにひなぎくさんにその問いをしたのか、自分でもわからなかった。

「つまらないことを申しました。忘れてください」

「はい」

 ひなぎくさんはそう言って、再び歩き出した。長い髪を後ろでまとめているだけの、質素な後ろ姿。その髪が一瞬跳ねて、ひなぎくさんはもう一度彼を振り返った。

「ああ、そうそう」

 ひなぎくさんはにこりと笑う。

「今夜は篤志さんの晩ご飯は用意しませんから、ゆっくりと楽しんできてくださいね。お酒もいいですが、しっかりと栄養バランスも考えてお料理を食べてきてくださいね」

「は、はぁ……」

「あと、あまり遅くならないでくださいね。心配しますから」

 それだけ言うと、ひなぎくさんは今度こそ、廊下の奥へと消えた。



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