【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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37: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/26(火) 21:49:42.75 ID:kmslFcGc0
「あ、うぅ……っ」

 荒木比奈は苦しそうな声を挙げる。
 目には涙がにじみ、荒く息を吐いていた。
 比奈の背中を撫ぜてやる。できるだけ、優しく。

「大丈夫か?」

「……大丈夫じゃ、ない……っス」

 比奈はふーーっと獣のように長く息を吐いた。

「申し訳ないっス、こんな……恥ずかしいところを……でも、あとは、一人で、大丈夫スから……」

「いや、さすがに放っておくわけには」

「……見られてる方が辛いっス」

「……わかった。戻ってこなかったら様子見に来るから」

 手に持っていた水の入ったコップを比奈に渡して、居酒屋の男女兼用トイレの扉を閉じた。

 比奈は完全に酔い潰れていた。
 無理もない。原稿が近い締切りのためにほぼ徹夜状態で呑み会に参加し、呑み会中は川島瑞樹、片桐早苗、高垣楓に加えてその三人の酒に完全に流された三船美優に四方を固められていた。この布陣なら潰れないほうが逆に怖い。

「あら、おかえりなさーい、比奈ちゃん無事?」

 川島瑞樹から声がかかる。赤い顔をしているがまだ意識はしっかりしてそうだ。

「無事じゃないです。見られていたくないって追い出されたので、戻ってこなかったら様子を見に行きます。ところでこれ、誰の歓迎会でしたっけね」

「帰ってきたプロデューサーくんの歓迎会よ!」

「なぜ主役が酔っ払いの介抱をするはめに……」

「あら、役得でしょ? もしくは、予行演習かしら!」

 瑞樹がそういってウィンクする。思わずため息が出て、肩をすくめた。
 歓迎会とはいえ、気安いメンバーの呑み会が始まって一時間半もすれば、こんなものだろう。歓迎というのは呑み会を開く口実に過ぎない。
 介抱に立った時と比べて、それぞれが座っている席もばらばらになっていたので、適当に開いている席に座り、近くに居た松本沙理奈、水木聖來と談笑する。やがて、比奈はトイレから戻ってくると、座敷に倒れ込んだ。すぐに上条春菜が水を持って比奈の傍に向かった。とりあえず、任せておけば大丈夫そうだ。

 ざっとあたりを見回す。比奈を潰した面々は、こんどは人事部長の先輩のところに大挙していた。あれだけのメンバーに囲まれれば、先輩もただでは済まないだろう。人のことを振り回したのだから、大いに振り回されてほしい、と心の底で密かに思った。
 別の席では、千枝が小日向美穂と一緒にホッケをつついていた。千枝は会が始まる前、笑顔で話しかけてきた。きっと、これからはそういう距離感を保つという合図なのだろうと解することにしている。

「ふふっ」

 座椅子の背もたれに体重を預ける。
 七月の中旬。数年ぶりに復帰した職場は、今日も騒がしいが、明るく、夢と活気にあふれている。






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