【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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34: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/24(日) 16:27:06.08 ID:HzWwrR110
 二人きりの誕生日会の相手が去って数分後、千枝が残っていた部屋に入ってきたのは桃華だった。桃華は涙で濡れた千枝の顔を見ると、何も言わずに穏やかに笑って、千枝に向かって両手を広げた。
 千枝はその腕の中に飛び込み、桃華と抱きしめ合った。桃華が優しく千枝の頭をぽんぽんと撫でると、千枝は再び涙を流した。

 しばらくそうしたあと、二人は身体を離す。千枝はへへ、と笑って、椅子に置いていたハンドバッグから何かを取り出した。

「……あら、千枝さん、それは……」

 千枝が取り出したのは、先割れスプーンにハンカチを巻いて、スプーンの先に顔を描いた人形だった。ひと昔前に流行ったおまじないで、持っていると悩みが解決し、解決したら人形を次の人に渡すのがその人形のルールだった。

「これ、次の人に渡さなきゃ」

「懐かしいですわね。……でも、千枝さん……?」

 桃華は千枝の顔色をうかがう。千枝の悩みが、千枝の想いが届かないことだったとしたら、想いを受け取ってもらえなかった以上、千枝の悩みが解決したとは言えないためだ。

「ううん、桃華ちゃん。私の悩みはちゃんと解決したよ」千枝は首を横に振る。「私の悩みはね、大切な人が、自分の気持ちに素直になれないことだったから」

 そう言って、千枝は精一杯微笑んだ。
 桃華はまぁ、と言って、もう一度千枝を抱きしめた。

「桃華ちゃん」千枝は涙声で言う。「えへへ、オトナになるって、難しいね。私、オトナになれたかなって思ってたけど、まだまだコドモだったよ」

「千枝さん」桃華は千枝を抱く両手に少しだけ力を込める。「子供から大人に成長すると、自分と他人が違うものだときちんと区別できるようになるといいますわ。大好きな人がたとえ自分と交わらないとしても、その幸せを願える千枝さんは、立派な大人だと、わたくしは思いますの」

「うん、ありがとう、桃華ちゃん」

 千枝は桃華に感謝した。
 千枝は思いだす。はやくオトナになりたいと千枝が言うたびに、あの人はたくさん食べて大きくなれよと言ってくれた。
 うれしいことも、かなしいことも、ぜんぶぜんぶ飲みこみ、吸収して、もっとオトナになるんだ。
 千枝はそう、自分の心に刻み込んだ。

<つづく>



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