【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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25: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/22(金) 23:24:51.60 ID:bG9RVlfB0
「恥ずかしがらなくてもいーのに、ねぇ?」

 沙理奈はニヤニヤとこちらを眺めている。

「沙理奈さ、楽しんでるでしょ」

「もちろん」沙理奈は悪びれずに言った。「面白いにきまってるでしょ、自分たちの気持ちに気づいてないのが自分たちだけだなんて、マンガみたいで」

「……」

 言われて、黙ってしまった。すぐに肯定できるほど、まだ整理はついていない。けれど、否定することができないのも事実だった。

「フフッ、なつかしいなぁ、あのころ、アタシの自慢の武器でいくら誘惑したって、ぜんぜんなびかなかった。プロデュースはちゃんとしてくれたから文句はないけど、ずっと、比奈ちゃんのほうばっかり見てたもんね」

「……」

 そうかもしれないと、考えていた。

「だからね」沙理奈は急に、真面目な声になる。「ちゃんと、向き合ってあげて。それは比奈ちゃんもだけど……二人に後悔は、してほしくない。さっき、煽ったのは謝るわ。でも、心配なんだ……約束だけに頼ってほしくない」

「身に染みたよ」

 降伏のサインとして、深く息をついた。

「でしょ?」沙理奈は今度は急に、にんまりと笑った。「それでね、来月の千枝ちゃんとのデート、千枝ちゃんのコーディネートはアタシが手掛けるから!」

「ちょっ? ちょっと」

「オトナになった千枝ちゃん、女のアタシから見ても相当ヤバいよ? カラダも成長して、あれで迫られて落ちない男なんてどうかしてるって思う」

「いや、いや待って」あわてて両手で沙理奈を制する。「そっちの約束も漏れてるの!?」

「フフ、モテモテよねー、せいぜい悩んでね! さあ、十年の約束と、いま最も注目のアイドル、どっちを選ぶのかしら!?」

「沙理奈やっぱり楽しんでるよね!?」

「もちろん!」

 沙理奈は心底楽しそうに言った。ここまで言い切られてしまっては、なにか反論する気も起こらなかった。
 カップを持ちあげる。中のぬるくなったコーヒーと一緒に、いまは全ての想いをのみ込むことにした。

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 比奈はカフェから離れて、美城プロダクションのミーティングルームへ向かう。打ち合わせやインタビューに使用することができる部屋だ。

 仕事がある、と言ったのは本当だったが、仕事の相手である雑誌のインタビュアーが来るまではまだ数十分の時間の余裕があった。カフェを出てきたのは、比奈自身がどんな表情をしているのかわからないくらいに動揺していたからだった。

 まだ誰もいないミーティングルームに入ってバッグを置くと、比奈は机に突っ伏した。

「……こんな形でアタシ自身の気持ちに気づかされるとは、思ってなかったっスね……」

 比奈は自分の頬に手の甲で触れた。燃えるように熱かった。

 元の肩書が取れて、プロデューサーに戻るかもしれないときかされた時、比奈は無意識に、約束の条件が崩れたと思い、それを残念にも思った。
 結婚できないかもしれない、と思ったときに、心がかき乱された。

「そりゃそうっス。眼を背けてただけで、フラグ管理は完璧だったっスね、ハハ……」

 ブルーナポレオンの担当プロデューサーと気楽に話せる間柄になった。
 結婚してもいいと思える相手でもなければ、はじめから「十年お互いに独身だったら結婚する」なんて約束を取り付けたりはしない。
 うっかり人に話して、それが広まっていくことで、約束で比奈自身を縛っていったし、相手のことも縛った。

 瑞樹たちに話した自分の気持ちに嘘偽りはない。本当に、相手として納得できるのか、比奈にはわからない。しかしそれをしっかり確かめようとしなかったのは、放っておいてもリミットが来るという事実があったからだった。

「たぶん、人事部長サンも、わかってああ言ったっスね……憎らしいやら、申し訳ないやら」

 比奈も少しではあるが、プロデューサー時代の人事部長のことを知ってはいた。敏腕で、狙った仕事は外さないし、アクロバティックなスタンドプレイのようでいて、すべてを丸く収める。

「沢山巻き込んじゃいました。アタシも、ちゃんと向き合わないと、失礼っスね……」

 比奈は自分で呟いて、さらに顔が熱くなるのを感じていた。
 アイドルになるまでは“非リア充”だったし、アイドルになってからは仕事が恋人だった。この年になって、男性との関係をどうしたらいいのか、本当に判らないのだ。たとえそれが、比奈にとって一番気やすい男性であったとしても。

「……今ならラブソングとか、もうちょっとうまく歌える気がするっスね」

 比奈は部屋の中で独り、困ったように笑った。


つづく



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