【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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11: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/18(月) 18:58:23.18 ID:6NOdCaNR0
 ぐるぐると考えているあいだに電車は降りるべき予定のホームに着いていた。営業先へのルートを頭の中で思い描き、開いたドアを降りる――

「――あ」

 降りたホーム、目の前には、さっきまで頭の中で思い描いていた元・担当アイドル、荒木比奈の姿があった。

「え、ええっ!」比奈は驚いたような声を挙げる。「な、何してるっスか!? こんなところで」

「それはこっちのセリフ」乗降客の邪魔にならないように場所を移動する。「仕事だよ、これからつぎの取引先」

「あー、そーっスか、そーっスよね、へへ、へ……」

 比奈は恥ずかしそうに笑う。
 それからちらりとこちらを見て、すぐに目線を外した。顔が少し赤くなっているようだ。誰かと酒を呑んでいたのかもしれない。

「比奈こそなにしてたんだよ、オフだったのか?」

「そーっス、瑞樹さんと心さんに……と、えーっと、一緒にゴハンしてたっス」

「あー……」

 その二人が何を話題にしたのかは想像に難くない。

「あっ」比奈ははっとしたような顔をする。「あー、行っちゃったっス……」

 電車のドアが閉じ、発車していった。

「おっと、悪い」

「いえいえ、こっちこそ、仕事中に引き留めて申し訳ないっス」

「ああ、そうだった、すまない、また機会があればな」

 また、と言ったのは社交辞令みたいなものだ。プロデューサーを辞めた一般人がプライベートで元アイドルの芸能人と会っていい道理はない。
 時刻を確認する。そして同時に思いつく。偶然でも直接会ったならちょうどいい。いま、祝いを済ませてしまえばいい。

「そうだ、誕生日おめでとう、比奈」

 そう、軽く口にしただけだったのだが。

「へ、ひぇっ!?」

 比奈の声が裏返っていた。

「あ……」比奈はうつむく。ハンチングのつばで表情が隠れた。「そ、そうっスね……そういえば、アタシ、誕生日、だったっスね……ありがとう、ございます……っス」

「ああ。ばたばたしててわるいな、あとでプロダクションになんか送っとくよ、それじゃ」

 妙に歯切れの悪い比奈の様子が気にかかったが、時間が差し迫っているのも事実だ。

「……また、っス」

 言いながらも最後までこちらを見ようとしない比奈を尻目に、俺は改札へ向かう階段を降りた。

 降りながら疑問に思う。比奈は誕生日だということを忘れていたような口ぶりだった。誕生日だというのに、瑞樹も心も比奈を祝わなかったのか? いまさら祝う歳でもないということだろうか。
 考えても答えは出ないので、その疑問はそのまま自然と頭から消えた。
 
 そうして、偶然の再開ののち、つつがなく仕事を終えて自宅に戻る。ジャケットを椅子にかけてネクタイをゆるめ、冷蔵庫から片桐早苗が商品イメージキャラクターを務ている缶チューハイを取り出して、プルタブを開け、テレビのスイッチを点けて、ソファーに身を沈めた。

 と、携帯電話にメールの着信が入っているのを見つける。
 送信者名を見る。どうも今日は、前の職場に縁がある日らしい。

 メールの文面にはシンプルに『いま、ご自宅ですか?』とだけ書かれていた。簡単に『そうだけど?』と返信をする。
 送信終了したのを確認し、缶チューハイをあおる――と、それを飲みこむより早く、携帯電話が震えた。メールではない、通話の着信だ。
 俺はむせそうになりながらあわててチューハイを飲みこみ、電話に応答する。

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