5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/12/06(水) 21:05:33.79 ID:BdHnp9Da0
悲鳴にも近い声を上げると百合子は部屋の中をしきりに見回した。
尋常ではない取り乱しようである。
鬼気迫る表情を崩さぬ彼女のその姿に、
男もようやく何か"異常"な事態が百合子の身に降りかかったのだと理解する。
「壁掛け時計の文字盤も、テレビに映ってるテロップも……ああそんな! ホワイトボードまで真っ白け!!」
「暇が多くて悪かったな!」
「おまけに私の持ってる本……嘘! 嘘嘘嘘嘘嘘っ!? 捲っても捲っても捲っても、どのページも全部真っ白だ!!」
そしてとうとう百合子は崩れ落ちた。
床に力なく座り込み、その膝の上にはページの開かれたハードカバーの本が一冊。
しかし、あまりにも奇妙である。
なぜならば、プロデューサーにはその本に記された数百と言う文字が目にできた。
本だけでない。壁掛け時計の文字盤も、テレビニュースのテロップも、
さらには仕事の予定を書き記しているホワイトボードの文字だって(まぁ実際のトコロ空白が、隙間は目立っていたのだが)ちゃーんとその目に見えていた。
にもかかわらず、だ。百合子は項垂れたまま本を捲り「真っ白、真っ白、真っ白け……」とぶつぶつ呟いているのである。
彼女が嘘つきでないとすれば、誰の目にも何が起きたかは実に明らか。
つまり、七尾百合子は今現在、"文字という文字を認識できなくなっている"!
「んな馬鹿な」
思わず男の口を突いて出た言葉に春香が笑ってこう答えた。
「信じられぬか? ではお主にも同じことをしてやろう――特別にな」
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