ムーディ勝山に受け流されたものたちが暮らしている街
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73:名無しNIPPER[saga]
2017/12/13(水) 21:33:53.26 ID:heOFNSiD0
 あやふやだった村長の容姿が次第に確かな形を取っていく。
 白いスーツ、蝶ネクタイ、口ひげ、そして右手には、マイク。
 
「やっと思い出してくれたか」と、村長改めムーディ勝山は言う。
「冷たいじゃないか、昔の相方をこんなに長い間忘れたまんまにしておくなんて」

「すまないな」と私は謝る。
「だが、許して欲しい。
 結果的には、ちゃんと君に辿り着くことができたのだから」

 さあ、帰るぞ。
 私はそう言って、右手を差し出す。

 ムーディ勝山は私の右手をじっと見つめる。

「お断りだ。
 もし、僕がそう言ったら?
 この街で平穏に包まれたまま、皆に忘れ去られて、眠るように朽ちていく。
 そうすることが望みなんだと、僕がそう本心で願っていたとしたら?」

「ぶん殴ってでも連れていくさ」

 私は答える。

「その言葉は嘘なんだと、私は知っている。
 忘れ去られていくことを望む芸人なぞいるものか。
 ウケなくても、目立たなくても、芽が出なくても、
 かつての観衆を沸かすことができなくなってしまっても、
 それでも、一瞬の笑いを求めて、あがき続ける。
 私たちはそんな生き方をしてきたんじゃないか」

 私は一呼吸おいて、叫ぶ。
 この街中に聞こえるように願って。
 この街の外にも届くように祈って。

「私たちは、芸人だ!
 忘れ去られてなど、やるものか!」


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