モバP「藤原肇とおちょこがふたつ」
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7:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:34:51.04 ID:n8reEq6Z0

あれから何年もたった。結局俺は同じ事務所にいる。
ただもうプロデューサーはやめて、内勤に異動した。
新たにアイドルを受け持つ気力がなくなったためだ。

もう肇と会うことはできない。
契約上、たとい元アイドルだったとしても事務所の人間と接触することは禁じられている。
面倒なことになってマスコミに面倒なことを報じられて事務所が面倒を被るのを防ぐためだそうだ。
まあわからないこともない。

ただ今でも、折りに触れて肇のことを思い出すことがある。
そうしたとき俺は太郎坊・次郎坊を持ち出して一人晩酌をするのである。
粗末なとっくりを置いて、二人分のお酒をついで、主のいない次郎坊に乾杯をする。

月日の流れは速い、すでに肇も成人しているはずだ。
この次郎坊も本来の持ち主に返すべきなのかもしれない。でも、そうすると。

そうすると彼女とのつながりが完全に消えてしまうような気がして、俺にはどうしてもできなかった。
男というのは別れた女性をいつまで経っても引きずるもので、決して上書きすることができない残念な生き物なのである。

澄み切った大吟醸に浮かぶスミレの花を、ただ虚ろな目で眺めて、俺は正体を無くすまで飲みまくった。
そして醜く情けなく、消え入りそうな声でこう呟くのだった。

「ごめん」

次郎坊は何も答えてはくれなかった。



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