22:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:59:50.95 ID:n8reEq6Z0
辞めた。
やめだやめだ。契約破棄だ。
満足に残業代も支払わねえ事務所なんざやってられるかってんだ。
俺は事務所からもアイドル業界からもいっさいがっさい足を洗うことにした。
担当アイドルもいないしもはやなんの未練もない。俺は一般男性だ!
俺はプロデューサーを辞めた。
そして俺はプロデューサーに戻ることにした。
広縁、つまりは幅の広い縁側に俺は座っていた。
今宵は満月、月は普段よりいっそう大きく白く輝いている。
次のスーパームーンはいつだろう。
座りながら俺はタブレットに目を通す。
横に置いた試し刷りのポスターが目に入った。
「藤原肇個展――土と理解と――」。
なかなかできばえがいい。これなら集客も十分見込めそうだ。
さて、次回の企画のほうもチェックしなくてはならない。またタブレットに目を戻す。
俺は一般企業に勤める傍ら、肇のプロデュースに就くことにした。
傍らにと言ったが実際はプロデューサー業が本職で、仕事は副業みたいなもんだ。みなさんと同じ。
肇はもう一人前の陶芸家で、その実力は折り紙付きだ。ここに関しては何の疑いようもない。
のだが、コマーシャルというか自分を売り込むことについてはとんと疎いようで、
どうやったら多くの人に見てもらえるのか、個展てどうやって開くのか、パトロンって何ですか……? みたいな凄惨な状況だった。
偉大なおじいちゃんがいるのだから、そこに頼めばいいのにとも思ったが、
詳しく話を聞くとおじいちゃんもそっち方面に関してはさっぱりとのことだった。
そんなわけで俺が志願して彼女のプロデュースに乗り出すことにしたわけだ。
ちょっと方向性は違うけれど、これもプロデュースであることには変わりない。
で、なんやかんやあって俺は岡山で暮らしている。これは自然ななりゆきなので何の不思議もない。
ただこの筋書きを書いたやつはとんだご都合主義野郎だとはたまに思う。
まあおかげさまでおじいさまとの関係も良好だし、いい生活を送らせてもらっている。
ことん、と。
縁側のすぐ脇にお盆が置かれる音がした。
お盆の上にはとっくりが一つ、そして太郎坊と次郎坊が二人。
「お疲れさまです。プロデューサーさん」
隣に座るのは、浴衣姿に羽織をかけた藤原肇。
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