20:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:56:47.71 ID:n8reEq6Z0
「……お久しぶりです。"プロデューサーさん"」
懐かしい響きに胸が熱くなった。
肇はまだ、俺のことをプロデューサーと呼んでくれるのか。
「わざわざ見に来てくださったんですね。ありがとうございます」
俺は何か言おうとした。でも言葉にならなかった。
口下手はこれだからだめだ。そんなだから伝わらないんだ。
俺はただただ頷くことしかできなかった。
「私、びっくりしました」
そうだろう。
俺にもなぜあんなことをしたのかわからない。
「でも」
"でも"の後に続く言葉に、身構える。
「嬉しかったです。嬉しくて、嬉しくて、それで――」
「ずっと、待っていました」
――。
氷解した。すべては杞憂だった。伝わっていたんだ、全部。
沈黙した。彼女は優しく微笑んだ。ほんのり顔が赤く染まる。
長い年月は俺たちを寡黙にした。語彙力の全てを失わせた。
でも俺たちは今それを良しとした。顔を見合わせてこの静寂を楽しんだ。
黙ることで、言葉にするよりもいっそう多くのことを話し合うために。
黙ることで、言葉にするよりもいっそう多くのことを理解するために。
幸せな時間が流れていく。壁に掛けられた時計が動き出す音が聞こえてきた。
ほんとうに男ってやつはだめだ。肝心な時に泣き出すのはいつも男のほうだ。
やがて肇はゆっくりと口を開いた。
「――"二人"は、元気にしていますか?」
もう俺は泣いていた。何で泣くのかわからねえ。
でも、俺はこの一言のために何年も何年も過ごしてきたんだ。
「あいつら、あいつら肇に会いたがってるよ」
そうだよな。
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