モバP「藤原肇とおちょこがふたつ」
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18:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:53:11.82 ID:n8reEq6Z0

「ちょっと」「おい」「押すなや」

すまねえ。すまねえ。通してくれ。

俺は初売りバーゲンで格闘するおばさんのように人混みをかき分けはじめた。
押し合いへし合いの中を平泳ぎの要領で隙間を縫っていく。
俺は一体なにをしているんだろう。もうまったく理解不能だった。

やがて俺は人垣の先頭、最前列へと躍り出た。
肇との距離は3メートルも無かったか。とにかく俺たちは近かった。

彼女と再び真っ正面から向かい合う。忽然と飛び出してきた俺に肇ははっとした表情を見せた。
でもその顔は恐怖に怯えてはいなかった。むしろ……いや、これは俺の勝手な願望だ。

一度は俺の無理解で、一度は俺の怯懦でもって、彼女と距離を置くことになった。
でも俺はもう未練にとらわれたくない。後ろ向きな日々を二度とは送りたくない。

俺は口を開いて叫ぼうとした。だが待ってほしい。
『館内ではお静かに』だ。だから。

だから俺はぶんぶんぶんぶんと首を振った。
そうじゃないと。違うと。否定の意志を示すために。

俺たちはどこかでボタンをかけ違っていたように思う。なればどこかでまたかけ直す必要がある。
いつか帳尻をあわせなくては、すべてを清算しなくては人は前を向くことができないから。

俺はまた肇と向き合いたい。次こそ彼女を理解してみせる。
だから俺は強い意志を込めて首を振った。違う!

あいつらは、幸せなんかじゃない。

あいつらは、今も"ご主人様"を待ってる!

俺はじっと彼女を見つめた。全く俺は自分勝手だ。
こんなんで分かってもらおうなんて甘ちゃんもいいところだ。

彼女の顔、戸惑いと逡巡の入り混じった表情。

当り前だ、口にも出していないのに。
理解してほしいなんて傲慢だよな。でも、でも――。

肇は、ぎゅっとマイクを握っていた。
何か込みあげてくるものを抑えるかのように。

……いや、これも俺の願望か。



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