31: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2017/12/19(火) 17:02:44.65 ID:1cHfv/HrO
書斎の扉を開けると、煌びやかな世界とは一転、漆黒の闇が広がる。窓がない書斎では、火を灯さねば昼でも暗い。
ランタンを二つも灯すと、大分明るくなった。
軍師「やっと書斎に着いた……。さぁ、仕事だ。怠けてはいられんぞ。忙しい忙しい」
書類のひとつを手に取った。
アルマリクから新たに送られてきた300人の駐屯兵の資料である。名前、年齢、出自を始め性格や得意とする武器などが詳細に書かれている。この資料を元に、軍師は兵を本隊か別働隊か輸送隊か振り分けるのだ。
軍師「全員貴族の子息か……不作だな。無駄飯喰らいが300人も増えただけだ。まったく、陛下も何を考えておられる」
先代勇者「おいッ! 軍師、おるな!?」
息を弾ませて贅肉の塊が転がり込んできた。
くしゃくしゃになった原稿を握りしめている。
軍師「いかがなされた」
先代勇者は軍師の机に原稿を叩きつけた。積み上げられた本が、ドサドサと床に落ちる。
先代勇者「さっき魔女が私に渡していった小説なんだが、ちょっと目を通してみてくれ」
軍師「卿はこの小説をもう読み終えたのですか?」
先代勇者「いいや、まだだ。まず最初に君の感想が聞きたい。知恵者の意見は、参考になるからのう」
人の感想をそのまま使い回す魂胆だな。軍師はそう確信すると共に、肩を落とした。どこまで堕ちれば気が済むのだろう。
軍師(自分の意見を持たない主君に、誰が仕える。私は間違っているのではないのか? 道を踏み外しているのではないのか?)
腐っても元勇者。それだけが必死に働く軍師の唯一の支えだった。その支柱にも、そろそろ亀裂が入り始めている。
先代勇者「夕食の時間までに読んでおけ。私は妓館へ行く。留守番、任せたぞ」
先代勇者「それから、君の書斎はいつ来ても暗いな。純金を分けてやるから、壁と床を早く新調しなさい。よいな?」
軍師の返答も聞かず、先代勇者は足を踏み鳴らしながら書斎を去っていった。
軍師「え、えぇ……。真っ昼間から妓館……」
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