30: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2017/12/19(火) 00:22:08.25 ID:2ZsS7dc10
軍師「かつての仲間が訪れた程度のことで、私を呼びつけないで頂きたいものだ」
黄金の廊下を歩く、童子のような男が一人。軍師である。
頭の左側がズキズキと痛んでいる。内側から金槌で頭蓋骨を叩かれているような激しい痛みだ。
足取りがおぼつかない。今朝食べた人参の炒め物が、胃液に乗って喉元までせり上がってくる。不快極まりない。
軍師「うップ――――!」
軍師は厠に駆け込んで吐いた。膝をつき、便器に顔を寄せ、これでもかというほど吐いた。
吐き気は治まっても、頭の痛みは引かなかった。
長い袖で口元を拭い、再び書斎へ向かい歩き出す。ゆっくり休んでいる暇などない。
来月、王都アルマリクの国王がバルフへ視察に来る。
それまでに、どれだけ民の生活水準を上げることができるか。
軍師「私がやらねばならんのだ。私が」
魔族との戦争には勝った。恐ろしい魔王も封印した。
しかし、これは侵略戦争ではなく防衛戦争であった。
勇敢に闘った将校や民兵への恩賞となる土地がない。戦利品もない。
大富豪に協力してもらいその場は凌いだが、次また戦争があれば、バルフは崩壊する。
軍師「なぜバルフ候は贅沢三昧の日々を過ごしている!」
軍師「体裁ばかり気にする愚かな男。だが、表面上は魔王を倒した英雄だ。従わぬわけにもいくまい」
有能な文官をもう何十人も罷免した。自分も爪に火を灯すような生活を送っている。
だが、先代勇者が豪遊に耽っているせいで、軍師の努力も水の泡。
バルフの財政は火の車なのだった。
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