240: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/08/01(水) 23:13:34.13 ID:VLtlB4jN0
戦士「ガハハハハ! そこじゃあッ!」
戦士の斧が血を求めて低く唸る。吹き飛ばされた盾が宙を舞った。
波が引くように、周囲の盾兵が道を開ける。勢いを殺さず、陣の内側へ突撃した。
両側は木柵。槍が突き出される様子も、進路を阻む兵の姿も見えない。
正しい方角から入ったのか。ふと、戦士の背筋に何か冷たいものが走った。
戦士「本当に、正しかったのか?」
衝突する時、妙に手ごたえが無かった。
盾兵の退き方も落ち着いている。
戦士が入るのを、予想していたかのごとく―――
兵士A「将軍! 退路を塞がれています!」
戦士「ぬうッ!? これは……!」
気が付けば、戦士の周囲は大量の槍、槍、槍。
槍で埋め尽くされていた。
退路を断たれてはどうしようもない。圧し潰されるだけだ。
ゆっくり、食虫植物が捕えた蠅を溶かしていくように、じんわりと。
戦士「否、まだ負けてはおらぬ。一時撤退するぞ!」
戦場に響き渡る戦士の怒号。兵が一斉に顔を上げた。
戦士「貴様、その槍を寄こせ!」
近くにいた盾兵から槍を奪うと、戦士は馬腹を勢いよく蹴った。
甲高くいななき、盾兵の海へ踊り込む戦士の馬。
戦士麾下の将校らも続々と武器を振り回し敵を薙ぎ倒す。
その勢いたるや虎と呼ぶべきか龍と呼ぶべきか。盾と槍を放り捨て逃げ始める兵も現れた。
戦士「やっと抜け出せたが、どうするべきか……」
振り向けば、陣形は再び元の状態に戻っている。
何物も寄せつけない盾の要塞。
装甲をまとった、巨大な虫を相手しているような気分だった。
見かけは地味だが、装甲の中には鋭い牙を隠している。
不用意に攻め込めば喰われるのはこちらだ。
何とも見事な陣を敷いたものである。
戦士「少し戦法を変える必要があるな」
どの方角が正しいなど、勘に頼るのはやめた。
そもそも、どの方角もハズレなのだ。
攻め込めば、盾士は瞬時に隊列を変えてくる。
外側は岩のように硬く、内側は流砂のように柔らかい。
そんな不規則な陣を相手に、従来の戦法が通用するはずないのである。
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