231: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/07/04(水) 01:02:09.07 ID:Fje6RjDZ0
木の葉の隙間に、ちらちらと炎が揺らめいて見える。
忍達が焚火を囲んで休んでいるのだ。
彼らは大富豪が雇った、腕利きの諜報部隊だった。
本名を捨て、感情を殺し、ただただ任務に従事する。
諜報の他に、暗殺や工作活動も行えるらしい。
いずれ特別攻撃部隊、略して特攻部隊と名を変え、間諜の部隊から独立させる。
そう、大富豪は言っていた。
間諜は忍の小隊長を務める黒髪の青年に声をかけた。
間諜「進捗状況はどうだ」
忍B「……」
忍Bは無言で頷いた。
初めて会った頃から、寡黙な男だった。
影たる者、余計な感情は必要ない。口数も少ない方がよい。
そのため、間諜も部下と向き合う時は最低限の言葉しか話さなかった。
冷徹なクノイチを演じることで、隊の中に緊張が生まれる。
精神と肉体を極限まで追い詰め、ようやく最強の諜報部隊は誕生するのだ。
間諜(これもみんな、勇者さんの笑顔が見たいから。もっと、喜ばせてあげたい。もっと、あの人の役に立ちたい)
タシケントとバルフを結ぶ、安全な輸送経路の確立。
王国軍に見つからないよう慎重に進めなければならない。
大型の輜重車も通れるように、なるべく平坦な道を選んでいる。
バルフから十数里北東へ向かった先にある、ドゥシャンベ郊外で間諜隊は休息を取っていた。
町へは入らない。ドゥシャンベの門衛は国王同様に猜疑心が強く、長い時間をかけても、全ての荷物を検めるのだ。
忍B「……隊長」
彼の口調にはやや棘があった。
数日間、バルフに戻っていたことを咎めているのではない。
間諜の身にまとう殺気が、緩くなったからだ。
それどころか、くだらん町娘が醸すような甘ったるい気まで見える。
表情に出さずとも、仕草や雰囲気で察知できた。
間諜「ごめんなさい」
謝ったものの、勇者と過ごした夢のような時間を忘れることはできなかった。
自分は間諜失格なのかもしれない。彼女は両手を顔にあて、大きく溜息をついた。
隣で、忍Bがぼそぼそ小声で呟いている。
忍B「……その時は、俺が隊長を殺します」
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