224: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/06/09(土) 00:02:54.58 ID:k+x3Sqx80
盗賊「こいつはもっと南方から流れてきたんで、ハザラ族の事情をまったく知らない。盗賊としての俺を追っかけてきただけなんだ」
女盗賊「お頭、どうしてあたしに教えてくれなかったんですか」
盗賊「余所から来たテメェに、いらぬ心配かけると思ったからだ」
女盗賊「お頭にとって、あたしはまだ余所者扱いだったんですか」
盗賊「んなこたねぇ、テメェも立派なハザラの一員だ。だが、わざわざ惨い話を聞かせる必要もないだろ……」
盗賊の表情がハッと変わった。痩せ細った女性が間道に倒れている。
彼は急いで女性の傍に駆け寄り、抱き起した。
瞳の焦点が定まっていない。鼻水とよだれで服はべとべとであった。
盗賊「おい、俺の声が聞こえるか。俺が誰だか分かるか」
女性「あぇ……?」
盗賊は悔しそうに歯を噛みしめた。
盗賊「家内だった女だ。もう薬にやられて、俺のことをすっかり忘れてしまっている」
盗賊「家庭を捨て、見知らぬ男の後を追い、辿り着いた先がこの地獄。相応の末路だろうよ」
勇者「それでも、愛していたんだろう?」
魔女「勇者君、それは野暮な問いだ」
盗賊は自警団と戦をする覚悟まで決め、闇商人の牙城に乗り込んだのだ。
自分の下を離れていった仲間達を取り戻すために。
盗賊「事が済んだら、また仲間に迎えるつもりだ。確かに一時悪魔に魅了されたが、奴らの性根は腐っていない。立ち直ることができる。そう、信じている」
魔女「うふふふ。意外と甘いトコあるんだね、キミ。一度裏切った人間が、二度裏切らない保証はないんだよ?」
盗賊「今度はみっちり『教育』する。何も知らない仲間を扇動した宿屋の主人。あいつは特にな」
魔女「ところで盗賊君、キミは一生こんな寂れた山奥でつまらない盗みを続けていくつもり?」
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