192: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/05/01(火) 01:14:39.53 ID:nkQwmkls0
静寂が部屋を包んだ。
暫し間諜はうつむいていたが、何かを振り切るように立ち上がった。
両手を腰に当て、説教するように捲し立てる。
間諜「い、いいですか勇者さん! 私達は強大な国家を相手取っているのです! たとえ多くの同胞を獲得しても、その犠牲は計り知れないでしょう」
勇者「それは分かってるよ」
間諜「分かってません! こんなところで、あの人が綺麗だのこの人が美人だの、現を抜かしている暇なんてないのです!」
勇者「いや、お前……」
間諜「危うく自分を見失ってしまうところでした……いけませんね。勇者さんの顔面は凶器です!」
勇者「顔面が凶器って酷い言い様じゃないか」
間諜「とにかく! これにて私は失礼します。その笑顔、くれぐれも私以外の人に向けちゃダメですよ! みんな心を乱してしまいますから……」
そこまで話すと、間諜は影と同化するように部屋から姿を消した。
勇者「はぁ……」
勇者は溜息をついた。
何とも身勝手な理屈を押しつける少女だ。
しかし、その少女が数十人の忍びを束ね、王国軍の諜報部隊と血みどろの闘いを繰り広げているのである。
勇者「やっぱり間諜には頭が上がらないな」
皿にはまだ、食べかけのプロフが湯気を立てていた。
夜空に浮かぶ満月は、今宵も銀色の光を放っている。
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