115: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/02/06(火) 22:30:35.21 ID:a/tvFQ4v0
数時間かけて、肥溜めの糞尿を汲み出した。
便所掃除が柄杓で液状の糞をすくい、壺に移す。
その壺は並んだ兵士達によって、リレー方式で防塁まで運ばれる。
全部で300個。糞壺は一人一個までしか持てない。
便所掃除「早くしろ、時間がない!」
腐った糞の臭いが、牧草地一面に広がった。
筆舌に尽くしがたいどころではない。
嗅いではならないものを、嗅いでいる。
軍師はこみ上がる吐き気を抑えながら、呻くように言った。
軍師「鼻が捻じ曲がりそうだ。今夜は飯が食えないだろうな」
便所掃除「つまり、テルメズ軍の攻撃は今日一日、凌ぎきれるってわけか。嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
軍師「浮かれるな。失敗は許されないのだぞ」
防塁に沿って、二つの横列が展開した。
第一列にはアルマリクより派遣された貴族兵300、第二列は先代勇者時代の精兵300。
足止めの役割を果たす貴族兵に、糞壺を抱えさせる。
貴族兵士A「ぐほェッ! ママン、たしゅけて……」
貴族兵士B「ぐぎぎぎぎッ」
貴族兵士C「敵とぶつかる前から、自陣に甚大な被害が出てるんですけど!? もしや、これで日頃の鬱憤を晴らそうとしているのではあるまいね? 便所掃除くん!」
便所掃除「アホか。お前ら剣も槍も弓も扱えない能無しだから、せめてもの情けで糞壺を持たせてやってんだろうが」
貴族兵士C「な、なんという口の利き方だ! お父様に言いつけてやるぞ! そしたら君みたいな没落貴族は、あっという間に平民に落とされてしまうのだからね!」
町の存亡がかかっている非常時でさえ、まだ下らぬ身分のことをとやかく言う者がいる。
戦争を間近で見たことがないので、命のやり取りをする実感が湧かないのだろう。
自分も彼らと同じだ。心のどこかで、戦争など大したことはないと感じている節がある。
その意識を変えるべき時が来たのだ。
便所掃除は槍の石突で地面を強く叩いた。
場が水を打ったように静まり返る。
便所掃除「死にたくなければ黙って聞け」
貴族兵士C「うッ……」
便所掃除「いいか? 敵が防塁に梯子をかけて登ってきたら、顔に向かって糞をぶちまけるんだ。糞が無くなったら、壺で殴りつけてもいい。お前らの役目は『敵を防塁の中に入れないこと』それだけだ」
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