2: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/11/23(木) 20:41:20.33 ID:rdG/2M1Y0
「改めてお疲れ様。握手会は可憐にとって緊張することばっかりだったと思うけど、よく頑張ったな!」
「は、はい……。うまく、話せたときのほうが、め、珍しかったけど……それでも、ファンの皆さんに、喜んでもらえました……! えへへ……」
声をかけてもらえただけで、心臓がとくん、って跳ねた。それが私を褒めてくれる言葉だったから、胸の奥がぽかぽかとあたたかくなった。
そして、プロデューサーさんが嬉しそうに笑っていることに気づいて、顔がかあっと熱くなった。
帰り道を走る車は私とプロデューサーさんの、二人きりの空間。
プロデューサーさんのにおいと、沢山のアイドル……大切な仲間の残り香が車特有のにおいに混じって、とても安らげる場所だ。
だけど、私の頭の中を占めている気持ちは、それだけに収まってくれそうにない。
私は、プロデューサーさんが、好き。きっと、恋という意味で。
一緒にいて安心する人は、いつの間にかその心地よさをそのままに、一緒にいると落ち着かなくなってしまう人に変わっていた。
今だって、胸の鼓動はどきどきと音を感じられるくらいに大きくて、せわしないリズムを刻んでいる。
何かの拍子に目が合ってしまったらどうしよう。
そう思うだけで、ミラー越しでしかプロデューサーさんの姿を見ることができなくなってしまう。それくらい、私は臆病なんだ。
……臆病だから、私が抱いているこの気持ちをいけないことだって理解して、恐れてしまっている。
アイドルの恋愛はご法度。プロデューサーさんが私以上にそれを理解してるってことも、すぐに想像できる。
でも。でも、伝えたいって思ってしまう。
臆病な私が、私なりに握手会っていうお仕事に挑戦できたことも……ううん、アイドルなんて、私には眩しすぎる存在を目指そうと思えたことも、プロデューサーさんのおかげ。
そういう気持ちを、やけに意識してしまって仕方がない。
おっかなびっくりだったけど、沢山の人の手を握りながらお話をして。
普段とは比べ物にならないくらい近い距離を私の知らない誰かに許す行為は、すごく緊張したし、ちょっとだけ怖かった。
だけど、来てくれた人はみんな優しくて、熱意があって、触れた手からそれが伝わってくるみたいだった。
だから、なのかな。プロデューサーさんに感じている気持ちが浮き彫りにされるみたいに思えて、仕方がない。
交わす言葉も、身体が触れるようなつながりもないのに、今この場所はこんなに安心して、どきどきする。
そのくせただ隣に座っているだけの距離すらもどかしくて、もっと近づいても私は受け入れられるのに、なんて思ってしまう。
私たちがこの距離にいられるのは、プロデューサーとアイドルだからだって、わかってるくせに。
私の恋は、私とプロデューサーさんが築いてきた距離を否定してしまうものなんだ。
言い聞かせようとすると、胸の奥の方がズキズキと痛むみたいだった。だからって簡単には捨てられない、って、叫ぶように。
どきどきと頬の熱さ、一緒にいる安心感、そして、恋心とその周りを渦巻く不安。どれも私の中に確かにあって、頭の中はぐちゃぐちゃになってしまっている。
プロデューサーさんのことを考えるだけで、きゅっと胸が締め付けられて、全部の気持ちがより強まることだけははっきりしていた。
……それでもやっぱり、私は恋をしていたい。きっと今以上にそうしようって思える時は、どれだけ待っても来ないと思うから。
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