80:名無しNIPPER[saga]
2018/02/01(木) 20:03:39.09 ID:RpEvvejf0
◇◇◇
「……理由は?」
駄々をこね尽した挙句、ようやく目当てのお菓子を買ってもらえないことに気づいた子供の様な表情で。
ココは知らずの内こわばっていた体を弛緩させながら、溜息と共に言葉を吐き出した。
『一言でいえば、貴女が信用できないからです。確証も何もない話に、ましてや部下を道連れにして乗ることなんて出来ません』
「給料は今以上に出すよ?」
『お金の問題ではなく、信念の問題です――貴女は四辺を切り落とすという言葉を、否定しませんでしたね?』
「……何とも賢しいことだ。ひっかけ問題とはね」
『貴女の動機を知りたかったというのも本心です。ミス・ヘクマティアル。できれば、貴女こそ我々の仲間になって欲しいと思いますが――』
「それは、君にとって最大の賛辞なのだろうね、ミス・アンスズ。だが、それこそお断りだ。私は私の手管で世界平和を目指す」
『多くの犠牲者がでる方法で?』
「第三次世界大戦で死ぬ人間よりは少ないさ」
『結局、そこなのですね。貴女は、人に見切りをつけてしまったのでしょう。愚かしい人々は、自ら武器を捨てることはしないと』
「できない、と言った方が正しいね。一度武器の頼もしさを知った者は、武器を手放せなくなる。
それとも、君なら彼らに武器を捨てさせることができるとでも? 陳腐なファンタジーに出てくるような聖女よろしく?」
『それができるのなら、この席に座ってはいません。ですが、わたしは貴女ほど他人に絶望していない。
"その時"は、いずれくると信じることができます』
「では、勝負になるな。その時が来るのが早いか、私がスイッチを押し込むのが早いか」
『……貴女に勝つことは、おそらく困難な道ですが』
回線の向こうから、凛としたミス・アンスズの声が響く。
『けれど、貴女に負けることはできない。その企みは、いずれ我々が挫きます』
「決裂、か。なんとも悲しいことだ。だが、それでもこの邂逅自体は有益なものだったよ」
『遺憾ながら、それについては同感です。では、これで。ココ・ヘクマティアル』
「ああ、これで――さようならだ、ミス・アンスズ」
ぷつり、と通信が切れる。ココは溜息をひとつ吐くと、背後でむっつりとした表情を浮かべている少年兵と向き合った。
「ところで、君はどう思う? セガール君。人は、自ら武器を手放せると思うかい?」
「俺を引き抜こうとしているなら無駄なことだ」
突然水を向けられたことに驚愕も躊躇いも見せず、セガールは愛想が欠落した口調でそう返した。
その様子に、ココは苦笑を浮かべる。まさに忠犬と言った有様だ。
「いや、単純な興味だよ。ヨナと同じ少年兵。君は武器を憎んではいなそうだけど、その歳でこの世界にどっぷりと浸かっている。
そんな君から見て、ミス・アンスズの夢は現実になると思うかい?」
「……難しいだろうな。お前の言う通り、武器を捨てられない奴をごまんと知っている。俺もその一人だ」
「なら――」
「だが、俺は彼女を信じている。お前などよりも、ずっと信頼がおける人物だ。
彼女が来るというのなら、それはいつか必ず来る」
「……彼女も、部下に恵まれているな。分かった、籠絡は諦めよう――下におろしてもらえるかい?」
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