相良宗介「HCLI?」
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48:名無しNIPPER[saga]
2017/11/26(日) 02:41:10.75 ID:9ajXHJzP0
◇◇◇

 M9に搭載されている高度戦術AIは、操縦者を補助するための音声認識機能を備えている。

 複雑なマスターモードの切り替えも、口頭ひとつで済むという訳だ。

 ところで人間というのは、会話が成立したように見えれば相手が例え人でなかろうとも親近感を覚えるという特性がある。

 必然、M9のAIを相手に、簡単なお遊びをするというのはそう珍しいものではなかった。

 例えばマオは自身の機体のAI<フライデー>に、ランダムで"ご褒美"を要求するように設定している。

 クルツなどはサンプリングしたアイドルの声を登録し、卑猥なことを言わせて遊んでいる始末だ。今回の出撃前の一幕は語るまでもない。

 それに比べれば、クルーゾーの"お遊び"は微笑ましいものだっただろう。

 彼の"趣味"に沿って設定したキーワードに、いくつかの機能をリンクさせただけ。そのワードを口にすれば、即座に発揮されるというものだ。

 "ノーフェイス"――ECS不可視モードの最大展開。

 "バス・グランマ"――両腕電気銃の最高出力照射。

 そう。クルーゾーはただ受け身に回っていただけではない。雪に埋まった自機の真上まで、バルメを誘導していたのだ。
 ECS不可視モードは、周囲の水分と反応して激しいスパークを発生させてしまう。その性質を利用するために。

 結果はご覧の通りである。厚い雲のお陰で周囲が薄暗かったのは幸運だった。
 ホログラム発生装置と、意図的にショートさせたテイザーによる発光が、一瞬だが視界を奪う。

 だが――事前にそれを知っていれば対応は可能だ。

 クルーゾーは閉じていた片目を開いた。もう片方は開いていた為視界がチラチラと瞬くが、耐えられないほどではない。

 ぼやける視界にバルメの姿を捉える。彼女は片目を押さえて体をふらつかせていた。

 彼女の弱点――隻眼という不具。訓練で距離感は補えても、目の個数はどうしようもない。眩んだ目が回復するには時間がかかる。

 悪く思うな。これが戦場だ。福祉整備が叫ばれている日常社会ではない。劣っている者はそこを突かれて敗北するのが理だ。

(まさか卑怯とは言わないだろう!)

 クルーゾーは雪上を獣のように疾駆した。バルメとの距離が一瞬で縮まる。

 視界を奪われたバルメは、それでも雪を踏み鳴らす音でクルーゾーの接近に感付いたらしい。
 勘だけでナイフを投擲してくる。切っ先は正確にクルーゾーの心臓を捉えていた。
 目が見えていないとは思えないほどの精度だ。その鋭さは拳銃弾と同程度には脅威だっただろう。

 だがクルーゾーは足を止めず、僅かに体の向きを逸らすだけで飛来する刃を回避した。後方に飛び去っていくナイフに振り向きもせず、そのまま敵との距離を0にする。

 ナイフの間合いよりもさらに内側、拳の距離――それはクルーゾーの支配する世界だ。

「ぐうっ!」

 苦し紛れに振り回される女の腕をあっさりといなすと、クルーゾーは掌底をバルメの鳩尾に叩き込んだ。

 一撃で意識を刈り取る寸勁の術(アート)。唾液を吐きながら、バルメの身体がくの字に折れ、そして脱力する。

 勝負に負けて、試合に勝った。そんな言葉が相応しいだろう。
 緊張が解けた途端に戻って来た全身の痛みに顔をしかめながら、クルーゾーは冷たい山の空気を肺一杯に吸い込んだ。

 上がりきった息を無理やり息吹で整え、ヘッドギアの通信を<ドラゴンフライ>から全体回線に戻す。

「こちらウルズ1、敵のナイフ使いは抑えた! ――これよりウルズ2と合流し、包囲を食い破る!」


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