23:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:06:39.00 ID:290cDT/E0
私兵たちに手で制するジェスチャーを送り、こちらに向かって歩み出てくる。
白いコートに身を包み、毛糸の帽子を被っているその姿は、ともすれば大学生にすら見えた。
もっとも、装備している軍用のインカムを見ないことにすれば、だが。
「M9<ガーンズバック>か! アメリカの特殊部隊でも試験運用が始ったばっかりだっていうのに、実働させてるなんてね」
物珍しげな視線をそれぞれの機体に向けながら、ヘクマティアルはざふざふと雪を踏み鳴らして怯えることなく近づいてくる。
なるほど、とメリッサは頷いた。ベンの言った通り、ただの女武器商人というわけではないらしい。
4機のASに囲まれて、これから身柄を確保されようとしているというのに、顔には相変わらずの酷薄な笑みが張り付いたままだ。
(というより――こんなにあっさり捕まるもんかしら?)
ここまでの武器商人の動きは見事だった。
事実、自分たちが襲撃をかけることのできるタイミングは非常に限定されており、今この場所以外には存在しなかったのだから。
このタイミングでの襲撃というのも、M9という鬼札があるからこそ成立したものだ。
それをヘクマティアルが予想できなかったからこその結果、と考えることもできるが――
「ところで、デートと言ったか」
ヘクマティアルが足を止めた。乗ってきた雪上車から数メートル。その気になれば、すぐさま引き返せる距離だ。
だが―― 一体、彼女に何ができる?
私兵は全員が拘束され、武装は精々が自動小銃程度。
事前に報告してきた情報部の目を誤魔化せたとしても、少量の爆薬を隠し持つのが精々だろう。
手榴弾程度の威力では、装甲を僅かにへこませるのが精々だ。
『ああ、快適な旅行を約束するぜ』
「それはありがたい。だが生憎、帰りの船のチケットは取ってあってね」
『おいおい、ここまで来てそりゃねえだろ』
『状況が分かっていないようだな』
クルツの軽口か、ヘクマティアルの態度を訝しんだのか、宗介の乗る<アーバレスト>の右腕がヘクマティアルに改めて指向した。
M9、そしてそれを基礎に設計された<アーバレスト>の掌部には対人用の電気銃が装備されている。
大雪が降っている現状、有効射程距離は短くなっているかもしれないが、それでも使えないことはない。
「分かっているさ――少数のASを出してくる可能性が一番高かった。"何度も使いたくないから"、賭けの部分もあったけど」
ヘクマティアルが首をかしげる。
それは両手を上げた状態で、装備したインカムのマイクを口元に近づける為の動作だった。
「状況は、整った――撃て、マオ」
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