19:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:11:27.07 ID:5fkFdj7q0
「この電灯が、時間になると消えてしまうってものさ、その子に教えてもらったんだ」
話している最中、いきなり消えた電球に怯える俺を、彼女はそっと抱きしめてくれた。耳元で囁かれた言葉が忘れられない。
20:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:11:58.38 ID:5fkFdj7q0
『暗いところだとね、星が良く見えるでしょ?』
『君は今、暗いところにいるかもしれないけれど、でも、だからこそ、ほんの僅かな星の光だって、他の誰にも見えない光だって、君は見つけてあげられるんだと思うんだ』
21:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:22:48.92 ID:5fkFdj7q0
今なら、その言葉の意味も分かる。あの頃、自分とそこまで年の変わらなかった少女が、こんな言葉を吐いたのかという驚きも、今になって漸く実感する。
誰かが吐いた言葉が、時間が過ぎ去った後になって、違う側面を見せてくるということは、よくあることだ。それは自分が成長した証だと言えるのだろうか。
それとも、ねじ曲がってしまった証拠となるのだろうか。巧妙な皮肉、遠回しな罵倒、そして、さりげない優しさ。俺は今までどれだけの物を見落としてきたのだろう。どれだけの感情から、目を背けてきたのだろうか。そんなことを思う。
22:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:26:29.51 ID:5fkFdj7q0
でもその時の俺は。
何も見えていなかった俺は。
23:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:28:50.98 ID:5fkFdj7q0
だから俺は―――――――
「俺は、その子にひどいことを言っちまったんだよな」
24:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:30:00.48 ID:5fkFdj7q0
『こんな思いをするくらいなら!!そんなの見つけられなくたっていい!!』
25:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:38:48.83 ID:5fkFdj7q0
「…………」
「で、まあ、飛び出して帰っちまったわけだ」
26:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:39:51.27 ID:5fkFdj7q0
「………」
「今になって思えば、あの子も何か悩んでたのかもしれないな」
27:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:43:12.73 ID:5fkFdj7q0
「その子の名前とか、聞かなかったのかしら」
「聞かなかったな、何話してたかもあんまよく覚えてないし」
28:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:44:01.84 ID:5fkFdj7q0
歳月は、残酷なほどに記憶を捻じ曲げる。記憶の底にある彼女の姿は、歪められ、ぼやけてしまっている。ほんのわずかに残っている残骸をかき集めても、像を結ぶことは難しい。記憶の網に引っかかっているものの中で、一番大きなもの。唯一、言葉として表現出来そうなものはたったの一つだけだ。『黒髪』。水面よりももっと滑らかで、闇よりも深い色をした、『黒髪』だ。
56Res/22.35 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20