57:名無しNIPPER[saga]
2017/11/10(金) 00:35:54.77 ID:uuR+QXp40
少しの間、サンディは黙ったままだった。何かを考えている様子だ。
それから、ぽつりと声を漏らした。
「私は、今まで生きてきた環境で、道具のように扱われてきました」
「うん」
「気に入られなかったらひどい事をされて、ご主人様の機嫌が悪くてもひどい事をされて。
機嫌が良いときこそ悲鳴が聞きたくなるという理由で、痛い事をされてきました」
「……そうなのか」
「ある日、その気まぐれで拷問を受けました。今までに一回だけ、本当に惨たらしい事を受けました。
その日の夜は死ぬ事ばかり考えていました」
「……うん」
「気まぐれというのは悪いものしか呼ばないと思ってました」
そしてサンディは、顔を上げてこちらを見つめてきた。
目には涙が今にも溢れんばかりに溜まっている。
「だから、そんな優しい気まぐれがあるなんて、思いませんでした」
涙の膜が張られた瞳は真珠のように淡く輝いて、美しかった。
「私は、ご主人様を、信じても、いいんですか……?」
僕はコーヒーを軽く啜る。彼女の気持ちに答える言葉を発するために喉を潤した。
「ご主人様、なんて呼ばせるような輩は信じちゃいけない」
「……」
「だから、この“お兄さん”を信じなさい」
「……!! はい、はい……! 信じます、信じます……! 信じさせて、ください……!!」
コーヒーを机に置いて席を立ち、そっと彼女の横に座る。
そのままゆっくり抱きしめて、胸の中に収めてみた。
朝方に零した淹れたてのコーヒーよりも熱いものが胸元を濡らしてくる。
ぽんぽん、出来るだけ優しく彼女の背中を叩いてみると、そのたびに胸にうずまった後頭部から嗚咽が響いてくる。
今まで辛い思いばかりの彼女が、ようやく年相応に泣くことが出来ているのかも知れない。
そう思うと何故だが僕の頬も濡れてしまう。涙を貰ってしまったようだ。
ハードボイルドとは程遠い朝だが、今日くらいは許してほしい。
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