59:名無しNIPPER[sage saga]
2018/10/27(土) 22:31:07.95 ID:tpe1QzXHo
・ ・ ・
「――おや」
「部長」
プロダクション内にある、休憩スペース。
その、自販機の前で、今西部長と出会った。
――カタンッ。
缶が落ち、音を立てた。
恐らくだが、缶コーヒーで、喫煙所に煙草の供として持っていくつもりだろう。
喫煙所の設置に関して、部長は本当に努力されていたので。
「缶コーヒーで良いかい?」
「いえ、部長、それは……」
「なあに、遠慮するな」
部長は、鼻歌を歌いながら小銭を投入し、自販機のボタンを押した。
「ちょっと、小銭がいっぱいになってしまってね」
そう言いながら、こちらにコーヒーの缶を差し出してくる。
一瞬躊躇ったが、先の物と合わせてコーヒーの缶は二つ。
受け取らないわけにもいかず、ここは、お言葉に甘えておこう。
「ありがとうございます」
感謝の言葉。
言うべき場面、当たり前の事にも関わらず、何故か部長は少し驚いた顔をしていた。
私の反応は、驚くようなものだっただろうか。
気が付かない内に、私の知り得ない何かをしてしまったのだろうか。
「……ああいや、すまんすまん」
口を開きかけた所を部長に制止された。
その顔には――笑顔が。
ニコニコと、人の良さそうな笑みが浮かんでいた。
一体、どういう事だろうか。
「すみません、ではなく……ありがとうございます、が来るとは思わなくてね」
「えっ?」
言われて、ふと、気付く。
以前の私だったならば、部長の言う通りの反応をしていただろう。
それが、意識せずに、似ているようでまるで違う言葉が口から出た。
小さいようで、とても、大きな変化。
「……」
何と言っていいかわからず、右手を首筋にやり、言葉を探す。
思えば、この癖も部長と接する内に、いつのまにか染み付いていた。
先程の変化も、恐らくは、彼女達の影響だろうと思う。
しかし……どう、返したものか。
「きっと、彼女達の影響だろうねぇ」
自分の中で思い至った結論を言い当てられ、より一層、返しに困る。
部長は、そうなるとわかっていて、先の発言をしたのだろう。
この人は、私を試し、からかうような事を時折する。
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