5: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/10/29(日) 23:09:05.69 ID:s1IKgLXf0
休憩やMCを挟みながらたっぷり一時間半ほどのライブは、途中からはもう夢見心地だった。
明るい曲には夢中でコールを入れて、ゆったりとした曲では感慨に浸ってしまって、一瞬一瞬は鮮烈だったはずなのに、どうしてかはっきりと思い出せない。
勿体ないとも思いつつ、でもリアルタイムだからこその幸せな酩酊感を満喫していたくもある。
だけど、ラスト一曲を残した最後のMCだけは話が別だった。
これだけは一言一句たりとも聞き逃したくない。それはきっと、この場所にいる誰もに共通する願いだと思うのだ。
「みんな、楽しかったかな? 私はね、最高に楽しかったの! それが伝わってると嬉しいな」
「一年やってきて、今でも印象に残ってるのって、最初にもぎ取ったお仕事なんだよね。ついに! ようやく! 私を認めてもらえたんだって、はしゃいじゃって」
言葉の節々は明るく、身振り手振りもぱたぱたと激しい。
だけど、何か大切なものを胸にぎゅっと抱きしめるような愛おしげな様子が感じられた。
初仕事……ありさが初めてアイドルちゃんとして活動した時って、どんな気持ちだったっけ。
と、いけない。考え込んでいるうちに彼女のMCを聞き逃してしまいそうだ。
「世の中にはいっぱいのアイドルがいて、そんな中で私が選ばれたって、凄いことだと思うから。だから、今日はこーんなにたくさんの人が私を選んでくれて、幸せです!」
それはきっと、彼女しか知らない軌跡と感情なんだと思う。
それをちょっとでもありさたちに伝えようとしてくれていることが、たまらなく嬉しい。
少しだけ震えた彼女の声に、がんばれ、と心の底でエールを送る。
「……えと、泣かないよ? うん。だ、大丈夫。それじゃ、これからの抱負!」
「私は、負けない! 大きな事務所のアイドルよりも、話題のプロジェクトのアイドルよりも、これからやってくる後輩アイドルよりも輝いて! もっともっと大きな虹色スパーク、響かせちゃうからねーっ!! それじゃあ、行くよっ!!」
――――。
今までで一番の歓声……ありさだって、その一員になるはずだった。
だけど、気づけば最後の曲が流れ始めていて、ありさは完璧に置いてけぼりだ。
大慌てでスイッチを切り替えて、コールと一緒にペンライトを振って、それでもどこか上の空。
鮮烈だったのだ。
未来のことを宣言……あるいは宣戦布告する彼女の本気の表情が、頭の中を埋めてしまっている。
ぞくり。驚くくらいにきれいで、鳥肌が立つほど強い魅力に満ちていた。
あの場所にあるのは、正真正銘これからもっと前へ進んでいくアイドルちゃんの姿だった。
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