鷺沢文香「とある国語辞典にまつわる思い出」
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4: ◆ROiGFUMIKA[saga]
2017/10/27(金) 00:13:03.02 ID:iRLQJglJ0



というものが、およそ数時間前の出来事です。

ええ、そうなのです。

考えに考えを重ね、ああでもないこうでもないとしている内に、ど壷にはまってしまいました。

もはや何度目かもわからないため息を吐いてから、開いていた辞典のページに栞を挟んで、ぱたんと閉じます。

趣味の欄だけ空白となったプロフィールシートから目を逸らすと、コルクボードに留めてあったとある名刺が目に入りました。

ある日、叔父の書店での店番の最中にプロデューサーさんよりいただいた名刺です。

縋るようにして、そこに記されている電話番号を携帯電話に打ち込みダイヤルボタンを押しました。

数コールの内に、プロデューサーさんが電話に出て『お電話ありがとうございます』という挨拶の後に事務所と自身の名前を一息に続けました。

その声が普段よりトーンが高いもの……所謂作った声であったので、少しおかしくて、吹き出しそうになります。

『お忙しいところすみません……。お疲れ様です。鷺沢文香です』

私が名乗ると、電話先のプロデューサーさんは『あー!』と声を上げて、いつもの声の調子で『どうしたんですか?』と言いました。

『実は、そのプロフィールシートのことでご相談が』

『ああ。鷺沢さん、悩んでましたもんね。いいですよ。そろそろ上がれそうなので、せっかくですしどこかでお話でも?』

『あの、そこまでしていただくのは……』

『スカウトした時以来、あまりゆっくり話せていないなぁ、と思いまして。それに、会社の方からも担当アイドルとはちゃんとコミュケーションを取るように、なんて言われているもんで』

『でしたら……ええ、はい。よろしくお願いします』

『よかった。断られちゃったらどうしようかと』

『そろそろ上がれる……ということはまだ事務所にいらっしゃるのですよね』

『ええ。あ、でもホントにすぐに出られるので』

『でしたら、事務所の付近のどこか、場所を指定していただければ……と』

『えっ。なんか申し訳ないなぁ』

『私のわがままですので、それくらいはさせてください』

『んー。では、そういうことで。駅の近くの喫茶店、分かりますか?』

『駅を出て目の前にある、喫茶店ですか?』

『それです。どうでしょう。一時間後にそちらで……というのは?』

『はい、問題ありません。よろしくお願いします』

『じゃあ、また後で。失礼します』



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